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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第7章 月影の哀悼歌
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2.安寧のディソナンス⑪ それがそもそも間違ってんだよ。

 手慣れた動作で、カートリッジを(つか)へと挿入する。幸いにして、()(けん)はきちんと発動した。()(たん)


「な、なんだそれは⁉ 魔法は使えないはずだぞ!」


 山賊たちの間に、一気に動揺が広がる。

 どうやら結界石とやらは、よほど頼りになる物らしい。リュートの()()を封じられていないという()()が、余計な混乱を招いてしまうくらいに。


「⁉ おい! 女が逃げたぞ!」


 アスラがこの機を逃がすはずがない。彼女はリュートが()(けん)を発動させた瞬間、すぐさま立ち上がり、全力でダッシュしていた。


「追え! 2、3人でいい!」


 首領が手早く指示を出し、リュートに向かって毒づく。


「どういうことだ⁉ なぜ魔法が使える⁉」

「それがそもそも間違ってんだよ」


 リュートは()(けん)を構え直し、


「悪いけど俺、魔法なんて最初から使えねーから!」


 地面を強く蹴り、後方へと跳ぶ。そして着地の瞬間、右足を軸に身体(からだ)を反転。後方に当然控えているであろう敵と向かい合った。

 まさか真っ先に背後の敵を狙うとは思わなかったのか、相手の顔が(きょう)(がく)にゆがむ。しかし不用意な接近を後悔した時にはもう遅かった。

 リュートは足の踏み込みに乗せて、相手の脇腹を()(はら)った。


「がっ……⁉」


 腹を切られた山賊が、身体(からだ)を折り曲げて痛みにうめく。その背中を力一杯踏み台にして跳び上がるリュート。

 別の山賊が振るった剣が、標的を失い空を切る。リュートは空振りした男の背中に着地すると、勢いのままにそいつの肩を上から貫いた。悲鳴が上がる。


(そろそろ来るか……?)


 ()(けん)を引き抜き、ついでに男の短剣を奪い取りながら、神経をとがらせる。

 先ほどの爆発時、アスラは魔法の存在に気づいた。もしかしたら、自分にも可能かもしれない。


(……っ! これか⁉)


 この世界の空間座標は、何度試みても読み取れなかった。しかしリュートのすぐそば、目と鼻の先の空間。そこに、唐突にゆがみが生じたのだけは分かった。

 リュートは男の背中を蹴り、ゆがみから飛びのいた。


「ははっ、かわせてねえぞガキが!」


 首領の嘲るような声。

 リュートは無視して、()(けん)と短剣を持ち替えた。


(さっきの爆発の感じだと……このくらいの角度でいいはずだ)


 衝撃に備え、両手に剣を握ったまま腕を交差させ、身体(からだ)を丸める。

 はじける空間。かまいたちの原理に近いのか、服や肌が各所で裂ける。リュートは衝撃に逆らわず身を任せた。風圧で身体(からだ)が吹き飛ぶ。

 アスラのいる方に向かって。


(確か、アスラを追っていったのはふたりだけ……)


 いっとき前に確認した人影を求めて、細目を()ける。

 前方に男がふたり。着地してからでは恐らく追いつけない。


(行け、当たればなんでもいい!)


 山賊から奪っていた短剣を、力任せにぶん投げる。

 (とう)(てき)に意識をやっていたので、気づいたときには眼前に地面が迫っていた。


「ぐっ……」


 がっ、と肩口から地面に激突する。なるべく頭をかばいながら地を転がり――()いていたので、転びながらも立ち上がるという自分でもよく分からない体勢立て直しを行った。

 左手にべっとりとした感触。


「くそ、やっぱ駄目か……」


 さすがに集中が切れ、()(けん)は解除されていた。カートリッジはあと2個しかないため、できれば継続使用したかったのだが。


(仕方ねーか)


 諦め、視線を向けると少し先に、頭を丸刈りにした男が倒れていた。期待以上というか余計な幸運というか、短剣は男の背中に突き刺さっていた。

 そのそばに、(ぼう)(ぜん)とたたずむ金髪の男。仲間を介抱すべきかリュートを襲うべきか、無視してアスラを追いかけるべきか。

 迷った末に、アスラを追うことに決めたらしい。こちらに背中を向け――ようとしたところで、


「我が血塗られた(のろ)い、その身に受けるがいいっ!」


 適当なことを叫んで、リュートはただの棒に成り下がった血まみれの()(けん)を、男に向かって投げつけた。


「ひっ……⁉」


 なにかの魔法かと思ったのか、男がおびえたように身をすくめる。その時間が欲しかったのだ。

 リュートは丸刈り男から短剣を引き抜き、金髪男の元へと滑り込んだ。


「安心しな、呪われねーから」


 代わりに短剣を靴の上から、全力で足の甲に打ちつける。足ごと地面に縫いつけられ、金髪が悲鳴を上げた。


「これでアスラは大丈夫か」


 今から追いかけても、疲労を感じぬアスラには追いつけないだろうし、街へ近づけば、さすがに手出しもできないだろう。

 武器を手放し、足を押さえてうずくまる金髪。おかげですんなりと剣を奪えた。

 ()(けん)を拾って剣帯に収め、鋼の剣を軽く振るう。

 リーチは()(けん)と同じくらいだが、やはり重い。


「ま、慣らしていくしかねーか」


 すでに残りの山賊たちが、こちらへと迫ってきていた。


「これだけ、歯向かえば……お前、もう殺されるな……ざまあ、見ろだっ……」


 あえぎ混じりに、足元の金髪が勝ち誇る。

 リュートは目だけで金髪を見下ろした。


「お前、カルテンベルクの誓いって知ってるか?」

「かるてん……? は? んなもん知らねえよ」

「そうだよな。そうなんだよ、お前らには関係ねえんだよ。つまりはな」


 場違いに愉快な気分になり、口の()がつり上がる。


「お前らには遠慮も配慮も手加減も、なにひとつとして必要ねーんだよ」


 腰を落として剣を構え、リュートは冷たく言い放った。


「アスラを吹き飛ばした分は、100倍返しじゃ済まさねえぞ」


◇ ◇ ◇

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