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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第7章 月影の哀悼歌
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2.安寧のディソナンス⑩ 思いやりが足んないんじゃねーの?

「アスラ⁉」


 リュートは受け身もそこそこに跳ね起き、アスラの元へと駆け寄った。


「大丈夫かっ⁉」


 引きつった声で呼びかけ、彼女を助け起こすと。


「うん、へーき。あたしはこういうのなら、大丈夫だから」


 平然と笑うアスラ。言う通り、彼女の身は傷ひとつ付いていなかった。

 確かにアスラは疲労や痛覚、負傷などとは無縁で、リュート自身、それに頼り切ってしまうことは多々あったが。


「そういう問題じゃないだろ! 第一っ――」


 痛烈に後悔する。派手に吹き飛ばされるアスラを見て、生々しい光景にぞっとして、考慮しなければならない可能性に遅まきながら気づいたのだ。


「第一この世界が、君にどう影響してるかも分からないんだ。もしかしたら『平気』じゃ済まなくなるかもしれない。いいか? 二度とするなよ!」


 手短に伝え、リュートは爆発が起きた場所に顔を向けた。


(今のはなんだ? 自然現象か? それとも……)

「――っ⁉」


 リュートはアスラをかばうようにして身を伏せた。

 空気を裂く音とともに、頭上をなにかが通り過ぎていく。それはそのまま地面に突き刺さった。


「弓矢?」


 矢尻の刺さり具合からすると、武器としてそれなりに洗練されたものらしい。

 リュートは慎重に顔を上げ、矢の飛んできた方向を見定めた。

 林の方から、何人もの男たちが近づいてきている。全員なにかしら武装しているが、どう見ても警察の類いには見えない。

 リュートはアスラを抱きかかえたまま、彼女の耳元にささやいた。


「アスラ。隙を見つけたら、街へ向かって全力で逃げろ。それまでは負傷したふりをしておくんだ。あいつらが油断するように」

「え、リュー君は?」

「俺は後で追いつく。君がいない方が集中できて、その分俺は()()しにくくなる。いいな? 俺のためだ」

「分かった」


 俺のため、という言葉が効いたのか、アスラが聞き分けよくうなずく。

 男たちを見据えながら、リュートはゆっくりと立ち上がった。()(けん)(つか)に手を添えながら。


(こっちでも使えるんだろうな? 緋剣(これ)は)


 事前に確かめておくべきだったが、もう遅い。

 5、6メートルほどの距離まで来ると、男たちは立ち止まった。

 先ほど()ってきた本人であろう、弓を担いだ男。その隣に立つ男――偉そうなたたずまいからして、恐らくはこいつが首領なのだろう――が、剣を手に、にやついた顔で口を(ひら)く。


「久しぶりだな。また会うとは思わなかったぜ……」

「? なにを言ってるんだ?」


 言いながらも、相手がなにを言っているのか、なんとなく分かった。


ギルティーク(あいつ)か)


 この男たち――山賊というやつか?――は、以前ギルティークを襲ったことがあるのだろう。遠巻きに矢の嵐を降らせた方が確実なのにそれをしなかったのは、飛び道具は貴重だからなのか、面と向かって痛めつけたいからなのか。


(どちらにせよ、その矛先が俺に向かってるってのが、すっげーむかつくけど)


 首領は倒れたままのアスラに目をやり、得意げに鼻を鳴らした。


「へへ、今度は魔法使いを連れてきててよかったぜ」

「魔法?」


 ぴくりと眉根を寄せる。


(そうか、ここは精錬世界だったな)


 魔法、妖術、呪術……世界によって形態は異なるが、精錬世界の住人は、そういった不可思議な力を扱えたという。

 初等教育時代の教科書内容を思い出していると、首領が先を制したとばかりに、剣を握っていない方の手を上げる。


「おっと。前みたいに、(けい)()(たい)を呼ぼうったってそうはいかないぜ。お前らの魔法は結界石で封じさせてもらった。消耗品で高くつくが、なめられたままでいられるのもな」


 リュートは悔しそうな顔をしながら――その方が相手の自尊心をくすぐって、時間を稼げそうな気がしたのだ――知識がないなりに、情報を整理していった。

 敵には魔法使いがいる。魔法の詳細は不明だが、少なくとも小爆発が起こせる。

 結界石という名前、そして敵は魔法を使える状況にあることから、特定の範囲内に、魔法が使えない状況を作り出してあるとみえる。

 ギルティーク(と恐らくパルメリア)は魔法を使える。そしてどうでもいいことだが、この首領はいちいちけちくさい。


「へへ、声も出ねえか……ん?」


 首領がここに来て、ようやくいぶかしんだ声を上げる。


「お前、そんなにちっちゃかったか? 格好も変だし」

「どいつもこいつも……あいつ基準に比べやがって」


 青筋立てて、カートリッジを取り出すリュート。

 首領の方はというと、自己完結したのか、剣先をこちらに向けてきた。


「まあいい。殺してもよかったんだが、(あか)しのない魔法使いなんて例がねえからな。見世物小屋にでも売り渡してやるよ」

「ああ?」


 リュートはやや乱暴に返し、()(けん)を逆手に抜いた。


「殺すとか見世物小屋だとか……あんたちょっとばかり、思いやりが足んないんじゃねーの?」

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