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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第7章 月影の哀悼歌
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2.安寧のディソナンス⑨ どんな大層な役割なんだか。

◇ ◇ ◇


「し、死ぬかと思った……」


 パルメリアの家から林道に出て、20メートルほど進んだ場所で。

 ぜえはあと荒い息で、()つん()いのままリュートは顔を上げた。


「ほんと心配したよぉ」


 実際不安げな顔で、手を差し伸べてくるアスラ。


「リュー君、口押さえて茂みの方行っちゃって。ようやく戻ってきたと思ったら、地面をのたうち回り始めるし……気圧の変化にやられたのかなあ」


 リュートはアスラの手を借りて立ち上がると、服に付いた草を払い落とした。


「いやまあちょっと、いろいろとな……つーかなに。なんで君やパルメリアは平気なわけ?」

「平気って?」

「だから、あの薬草茶……」

「ああ、あれ。おいしかったよね♪」


 きゅるんと両手を組み合わせ、アスラが(こう)(こつ)に近い表情を浮かべる。


「なんか懐かしいっていうか。ああいうのをお母さんの味っていうのかな」

「いやそんなお母さんいてほしくない」


 心の底から否定して、リュートは歩きだした。

 もう夕暮れ時だ。暗くなる前にオベリウムの街へ着きたい。食事に関しては……先ほど胃袋に惨烈な一撃をもらって完全に食欲が()せたので、ある意味空腹問題は解消されていた。


「そういえばアスラ。さっきはなにを考え込んでいたんだ?」


 ようやく機会を得て、アスラに問う。珍しく神妙な顔をしていたから、気にはなっていたのだ。

 アスラはリュートの隣を歩きながら、


「ん……とね。ギル君が」


 ギル君という呼び名に、多少むっとくる。

 が、アスラは気づいたふうもなく続ける。


「なんだろう。会えてうれしかったっていうか、どこかで会ったことがあるっていうか……」

(会ったことがあるって、そりゃまあ俺と同じ顔みたいだし……ってことでもねーか)


 アスラの口ぶりからすると、そんな単純なことでもないらしい。


(あいつの存在そのものに、なにかを想起させられている……?)


 林道は特に舗装されてるわけでもなく、自然に出来上がった野道のようだった。凹凸を頑強なブーツで踏み進みながら、ずっと考えていたことを吐き出す。


「そうなると、あのパルメリアって少女……かつての君かもしれないな」

「え?」


 その可能性はなぜか全く考慮していなかったのか、(きょ)を突かれた声を出すアスラ。ぱちくりとまばたきをし、


「じゃああたしは昔、パルちゃんとしてここに生きてたの?」


 そう念押しして聞かれると、途端に自信はなくなった。

 リュートはアスラにというより、自分に確認するように言葉を並べていく。


「君は、かつて女神がその身に取り込んだ()(しん)の集合体だ。巡り巡ってセラが受け継ぎ、姿を現した。女神がいうには、君は()(しん)たちのうち1体の魂を核として、存在を形成している可能性が高い」

「それがパルちゃん?」

「彼女そのものというより、パルメリアの魂を最終的に引き継いだ()(しん)ってことだけどな。別に彼女自身が女神に反逆したわけでもないだろう」


 言ってから、この話題はアスラにとって面白くないものだと気づく。

 リュートは慌てて先を続けた。


「ともかく見た目からしても、パルメリア(イコール)アスラなんじゃないか?……薬草茶の好みも一緒みたいだし」


 最後のは、ぼそっと付け加えて。

 アスラはなにより、その点に食いついて笑った。


「リュー君ってば。外見の一致はともかく、薬草茶の好みで同一人物っていうのは、さすがに乱暴だよお」

「DNA鑑定並みの立証力だと思うけど」


 割と本気で言ったのだが、相手にされなかった。

 アスラはけらけら笑い、


「でもそっかあ……パルちゃんが、昔のあたしかぁ……あ!」


 すごいことに気づいたというように、目を輝かせた。


「じゃあギル君は、昔のリュー君なのかな?」

「はあっ? やめろよ気持ち悪い」


 ぞわっと背筋に寒気が走り、リュートは顔をしかめた。


「でもじゃあなんで一緒の顔なの?」

「さあな。君の意識に引っ張られて、自律指向型記憶次元(メモリー・サーキット)が混乱でも起こしたんじゃないのか?」


 適当に理由づけ、厄を振り切るようにすたすたと歩く。


「つーかあいつは何者なんだ? (しん)(ぼく)みたいだったが」


 その辺りは特に、もう一度会って確認したいところではある。


「なんか役割がどうとか言ってたね」

「はっ、どんな大層な役割なんだか。だいたいなんだよ、あの人を見下した目は。いけ好かない顔しやがって」

「だからまんまリュー君の顔だよ」

「俺が言ってるのは表情とかそういう類いのことだっ!」


 拳を握ってアスラを振り向くと、


「リュー君っ!」


 どんっとアスラに突き飛ばされた。


「なっ……」


 地面に倒れながら見えたのは、なんの前触れもなく起きた小爆発に、弧を(えが)いて吹き飛ぶアスラの姿だった。彼女はそのまま地面にたたきつけられ、身体(からだ)を跳ねさせる。

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