2.安寧のディソナンス⑦ お前の顔を見てるとむかむかする。
◇ ◇ ◇
「……で、ガキども。なんなんだお前たちは」
テーブルを囲う4つの椅子におのおの腰掛け、軽く自己紹介し合って。
パルメリアがお茶を沸かしに行った途端の、この質問である。
向かいに座る男――ギルティークは足を組み、リュートをにらみつけてきた。
「お前神僕だろ。そいつはなんだ? 力はもっているみたいだが……」
アスラを目で指し、あくまで尊大に追及してくる。
(つーか室内でマントくらい脱げっての)
最悪な第一印象が尾を引いて、もはや一挙一動が鼻につく。
『そいつ』呼ばわりされた当のアスラはというと、なにやら考え事をしているのか、先ほどから押し黙っている。たまにギルティークの方を見て、悩ましげな顔をしたりもしているが。
(だいたいなんなんだ、このむかつく男は。パルメリアもだ。どうして俺たちと同じ顔を……? 偶然にしては気持ちが悪過ぎる)
不気味な偶然に圧され、リュートはいら立ちつつも迷っていた。ギルティークにどこまで話すか。
(口ぶりからすると、こいつも神僕みたいだが……)
尊大な態度が気に入らないという理由ではなく――いや、気に入らないのは事実だが――この世界における神僕。それは味方として頼っていい存在なのか。リュートの中で決めかねていた。
(……そっちが探りを入れる気なら、こっちもだ)
思い出す。ギルティークは『警告』という言葉を使っていた。ということは彼自身、なにか後ろめたいことがあるのかもしれない。
リュートも負けじと、にらみつけるようにして身を乗り出した。
「あんたこそ……女神様の意に背いてなにをやっている?」
「俺は役割を果たしているだけだ」
添え木をしたまま無理やり腕を組み、ギルティークが鼻を鳴らす。
「用がないなら失せろ。ここは俺の領分だ。お前の顔を見てるとむかむかする」
「同じ顔だろ!」
「お前みたいなチビガキが俺と同じ顔っていうのが、よりいっそうむかつくんだよ」
「なっ……」
「はいはーい、そこまでそこまでっ。パルメリアちゃん特製の薬草茶だよ♪」
リュートが挑発に乗りかけたのを狙ったかのように、パルメリアが部屋に入ってくる。そして、
「あーっ! ギル君やめてよ!」
お盆をガチャンとテーブルの上に置き、慌ててギルティークのそばに寄る。
「な、なんだよ?」
初めて動じた様子を見せたギルティークの下から、パルメリアがなにかを引っ張り出した。
「ノッポ君を踏んでる!」
ぷんぷんと、なにかの生物を模した長細い縫いぐるみ(たぶん)を抱きしめるパルメリア。
(あー。そういえば、なんかあったな)
リュート以外の椅子にはそれぞれひとつずつ、得体の知れない縫いぐるみが置いてあった。
ちなみにアスラの椅子にあった縫いぐるみは、もしかしたらウサギかもしれない3つの目をもつ変な生物だった。なにやら気に入ったらしく、ずっとアスラが抱きかかえている。
「まったくギル君ってば。家族は大切にしないと」
「勝手に家族を増やされるのはこの上もなく不愉快だ」
リュートとアスラそっちのけのかけ合いに、リュートはふと気づいた。
「あーっと……おふたりは夫婦なん――」
「違う」
質問を言い終える前に、ぴしゃりと否定される。