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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第7章 月影の哀悼歌
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2.安寧のディソナンス④ 忘れるな。

(こいつらが治癒の力を身につけるのは、まだまだ先か)


 治癒の力は創造の力。破壊の力を行使するより、代償を伴う呪術を会得するよりも膨大な時が必要だ。

 ……あと何回世界を混ぜ戻せば、住人たちは女神の仲間にふさわしい力を得るのだろうか。

 ……あと何人の悲鳴を聞けば、自分はこの循環から抜け出せるのだろうか。


(そんなこと……俺が考えるべきことじゃない)


 考えたくもない。


「ね、ギル君ってひとり暮らし?」

「え? あ、ああ」


 即興の設定に照らし合わせ、唐突の質問になんとか答える。ギルティークの外見年齢は、二十歳(はたち)そこそこ。なにも不審な回答ではないはずだ。

 パルメリアが布で傷口を巻いていきながら、天気の話でもするように、あっけらかんと続ける。


「じゃあさ。()()が治るまでの間、ここで私に面倒見させてくれないかな?」

「は?」


 頰がかくんと、手のひらから落ちる。


「だって()()したの私のせいだし……それに私、年の近い友達っていないから、もっとギル君と話してみたいんだよね」

(年近いって……軽く数十万は離れてるぜ。そもそもが、警戒心なさ過ぎだろう)


 パルメリアは、ギルティークのあきれたようなまなざしを受け、


「あ、それにほら。あの強盗が仕返しに来たら怖いなー……なんて」


 取ってつけたようなことを口にした。


「報復を心配するのは結構なことだが」


 ギルティークは一応、その建前に合わせて問題点を指摘した。


「あんたを襲うのは、あいつらだけじゃないかもしれないぜ」


 トントンと、指の腹で机をたたく。


「俺は男であんたは女。そこんとこ、分かってんのか?」

「そのときは、問答無用で爆砕するから大丈夫♪」


 きちんと警戒心がはたらいていたことに対する(あん)()が半分、簡潔な爆砕宣言に対するドン引きが半分、といった形でギルティークは肩をこけさせた。


「だったら護衛もいらないじゃねえか」

「そこはほら、それはそれってやつで」


 あはは、と頰をかき、ギルティークの腕を木切れで固定させていく少女。


「まあ別に。あんたがそれでいいってんなら、ありがたく世話になるぜ」

「ほんと⁉」

「ああ」


 居候はギルティークにとっても都合のいい展開だった。なまじ存在を認識させてしまった以上、監視はやりにくくなる。それならいっそのこと、懐に飛び込んでしまえばいい。


「やったあ! 楽しくなりそう♪」


 るんるんと歌いだしそうな流れのまま、パルメリアは本当に歌いだした。祭りの時に流れるような、軽快な歌だ。


「歌、好きなのか?」

「え?」


 不意を突かれたように、パルメリア。

 この際だ。ギルティークはずっと気になっていたことを聞くことにした。


「さっきも歌ってただろ、林道で」

「……うん、大好き」


 本当にうれしそうに、パルメリアが笑う。胸に手を当て、


「こうね、歌うと自分がどんどん(ひろ)がっていって、世界と一体になって、溶け込んでいく感じがするの。嫌なことも全部忘れて。全てとつながってるような、不思議な感じ」

「ふうん」


 世界とつながるのは、どちらかというととらわれている感じがして、個人的には全く共感できない感覚だが。


(……個人的には、だと?)


 いらいらと、ギルティークは己を戒めた。


(俺は個人じゃない。女神から役割を与えられただけの、ただの(しん)(ぼく)だ。俺の意見はどこにも影響しない……してはいけない)


 忘れるな。

 少女がいる。世界が()る。

 世界丸ごと少女を殺す。

 それが自分の役割だ。


◇ ◇ ◇

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