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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第7章 月影の哀悼歌
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2.安寧のディソナンス③ なかなか死ぬ機会に恵まれない。

◇ ◇ ◇


 小さいながらも(けん)(ろう)な石造りの家。そこがパルメリアの家だということは、いつも見ていたからもちろん知っていた。


「さ、入って入って」


 促されるままに入り、左腕に右手を添えたまま、奥へと進んでいく。

 と、応急処置で巻いておいた布から、血が滴り落ちそうになっていることに気がついた。


「…………」


 右腕の袖で、乱暴に血を拭う。

 別に床が血で汚れようと知ったことではないが、なんとなく、一応そうしておいた。


「こっちだよ。この椅子に座って」


 居間にあたる部屋に通され、ギルティークは椅子のひとつに座らされた。隣の椅子には、なんらかの生物をかたどった、不細工な縫いぐるみが置いてある。


「あ、それミミちゃん。あたしが作ったんだよ。かわいいでしょ?」


 自慢げに言うパルメリア。

 たぶん反応した方がいいのだろうと、ギルティークは再度縫いぐるみを見て会話をつないだ。


(はり)(せん)(じゅう)か?」

「ひど。(みみ)(なが)(じゅう)だよ」

「……にしては目が1個多い気が」

「うっかりだよ」

「豪快なうっかりだな」

「んもう、そんなことはいいから。手出して」


 もしかしたら、多少の自覚はあったのかもしれない。ごまかすようにパルメリアが()かしてくる。

 彼女は縫いぐるみをどかしてギルティークの隣に座ると、負傷部位を手に取った。


「……うっわー、結構ひどいことになってるね」

「別に。痛いだけだ。死ぬわけじゃない」


 右手で(ほお)(づえ)を突き、淡々と答える。

 事実、死んでみたいと思うくらいには、なかなか死ぬ機会に恵まれない。


「――よし、あたしお手製塗り薬の出番だねっ」


 パルメリアはガタッと席を立つと、壁際の棚から小瓶や清潔そうな布など、手当てに必要な一式を手早く取り出した。戻ってきて再びギルティークの隣に座ると、机上に平らな器を置く。


「ギル君、手を上に」


 言われた通り、器の上に左腕を置く。パルメリアが瓶から(そそ)いだ水が、血を洗い流して器へとたまっていく。


「ねえ。ギル君はこの近くに住んでるの?」


 痛みから気をそらそうとしてくれているのか、ただ世間話がしたいだけなのか。パルメリアが聞いてくる。


「まあな」


 答え、ギルティークは頭の中で設定を復習した。まさかずっと監視してましたとは言えないので、ここに来るまでの間に、適当に(うそ)を作り上げた。


「そうなんだ、あたし全然気がつかなかったよ」


 薬瓶の蓋を()けながら、パルメリアが頰を緩める。

 あまりにもにやにや笑うので――正直気味が悪くて――ギルティークは問いかけた。


「どうした?」

「あたしね――初めてなんだ。あたしと同じ、(あか)しのない魔法使い見たの」

「……そうか」


 パルメリアの前で力を使ったことを、今更ながらに思い出す。

 この世界基準では、あれは魔法ということになるのだろう。ただしこの世界では、魔法使いは褐色の肌をもつ。そうでない者が魔法を使えるなどあり得ず、もしそんな者がいた場合は異端だの魔女だの騒がれる。

 パルメリアと同じく。


「きっとギル君も、大変な目に遭ってきたんだよね」


 いたわるような声。異端者が受ける扱いなど、古今東西決まっている。

 しかしギルティーク自身はその扱いを受けていないので、同族意識を向けられても気まずいだけだ。自然、なにも言えず黙り込む。

 ギルティークのそんな態度すら、つらい思い出による沈黙と取っているのだろう。パルメリアはなにも聞かずに、優しい手つきで傷薬を塗っていく。薬は傷口にひどく染みた。

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