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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第7章 月影の哀悼歌
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1.罪障のリフレイン⑨ ……ありがとう。

「彼を奪ったあなたたちが、のうのうとここまで来るなんて」


 声に遅れるようにして姿を現したのは、ロザリアだった。茂みをかき分け、つかつかと歩み寄ってくる。採集の最中だったのか、手に小刀と籠を持っていた。


「それは……当たり前じゃないか、あいつは悪魔なんだぞ? 復活でもされたらかなわない。しばらくは毎日交代で、様子を見ようということになったんだ」


 男は(ろう)(ばい)しつつも言い返すが、彼女にとっては反論にもならない()(ごと)であったらしい。冷たい声で己の要求を突きつける。


「彼を悪魔だなんて言わないで」

「ロザリア、お前もこんな外れじゃなく村まで来い。俺は心配なんだよ。おやじさんにはなにかと世話になった。もしまたお前が悪魔の男に――」

「やめてよ! 彼は悪魔じゃない! 悪魔なんかじゃなかったのにっ! もう帰ってよ!」


 ロザリアが悲痛な声で叫ぶ。

 男はなおも彼女を気にかける様子を見せていたものの、対処のしようがないと判断したのだろう。再度「俺は心配なんだ」とだけ言い残し去っていった。

 テスターは一歩踏み出した。踏まれた小枝が折れる音が、ロザリアの注意を引く。彼女は疾走後のように息を荒らげていたが、こちらを見ると目に不可解の色を浮かべた。


「あなたたちは? 村の人じゃないわよね。どこから来たの? 一応ここは私の家の庭先なんだけど」


 テスターとセラは顔を見合わせた。やはりおかしい。

 が、ロザリアの方は疑問を持て余すつもりはないようだった。切り替えるように数度まばたきをすると、


「まあ別にいいわ。どうでも」


 肩をすくめて小屋へと向かう。


「あの」


 セラが困惑顔で呼び止めると、ロザリアはぱっと振り向いた。素早い動きで、小刀の軌跡も見逃しそうだった。


「きゃっ⁉」


 突如自分を襲った()に動じながらも、セラが後ろに跳びすさる。かばうように掲げた右腕を、ひらめく小刀が浅く()いだ。

 体勢を崩したセラに、ロザリアがなおも斬りかかろうとする。


「……っ!」


 テスターはセラの左腕を引き、後方へと押しやった。そのまま勢いを利用して、内向きに回し蹴りを放つ。

 ロザリアがひるんで後退すればそれでよし。よけ損ねて蹴りを食らっても、それは自業自得ということで諦めてもらう――というはずだったのだが。

 彼女はさらに踏み込んできた。


「っ⁉」


 蹴り足がロザリアの肩口を捉え、彼女の顔が苦痛にゆがむ。

 しかしその時には、ロザリアも手にした小刀を、(くい)打つようにこちらの(ふと)(もも)へと突き刺していた。

 テスターは舌打ちして彼女を蹴り飛ばした。

 悲鳴を上げて倒れるロザリア。

 拘束すべきか迷っていると、背後で重いものが倒れる音がした。

 肩越しに振り向くと、セラが地面に倒れていた。意識を失っているようだ。


「セラっ⁉」


 慌てて駆け寄ろうとするが、景色がぐらつき足元がおぼつかない。皮肉なことに、(ふと)(もも)に走る痛みだけは鮮明だ。

 近づいてくる気配に、背後を振り返る。


「……ありがとう」


 ロザリアがこちらに歩いてきながら、見覚えのある笑みを向けていた。

 小屋の中で見た、熱に浮かされたような(ほほ)()みだ。

 それを確認したところで、視界が暗転した。


◇ ◇ ◇

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