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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第7章 月影の哀悼歌
312/389

1.罪障のリフレイン⑧ 気味が悪い。

◇ ◇ ◇


「テスター君っ⁉」


 悲鳴を上げるセラの手を、テスターは反射的に引っぱっていた。

 誰がどうして。

 それが分からないなら、どれほどの追撃があるかも分からない。

 セラを強引に茂みの中に押し入れ、自分もそこに身を潜める。

 次いで聞こえてきたのは、草木をかき分けなにかが遠のいていく音。さらなる攻撃はないようだ。

 ほとんど()いつくばるようにしてしばし待ち、それ以上はなにも起きないことを確認した(のち)……

 ようやくテスターは、自分の痛みに集中できた。セラの頭から左手をどけ、傷ついた右手に目を落とす。


「大丈夫っ?」


 セラが解放された頭を上げながら、身を乗り出して聞いてくる。


「まあ、なんとか」


 顔をしかめながら、左手で()()()れる。

 右手のひらを、1本の弓矢が貫通していた。粗雑な作りではあるが、矢尻にはちゃんとかえしも付いており、その(いびつ)な切っ先からは血が滴っている。


「ったく、誰だよ一体。問答無用に()ってくるなんて、失礼なやつだな……」


 軽口をたたきながら、()(がら)を握るテスター。

 引き抜けば傷口が広がる。テスターは弓矢を折ろうと、握った左手に力を込め――突如として消えた抵抗に肩透かしを食らい、己の手のひらに爪が食い込んだ。


「は……?」

「消え、た……?」


 セラとふたり、(ぼう)(ぜん)とつぶやく。

 そこにあったはずの――テスターの手のひらを貫通していたはずの矢が、一瞬のうちに存在丸ごとかき消えた。そしてさらに信じられないことに、


「傷が……」

「消えてく……」


 手のひらにうがたれた穴が、見る見るうちにふさがっていく。

 数秒も()たぬうちに傷は跡形もなく消え去った。流れ出た血だけが冗談のように肌を汚している――かと思えば、その血は意志をもっているかのように動きだし、手の甲で紋様のような形を(えが)いた。そのまま肌に溶け込むようにして乾いてしまう。


「なんなんだ?」


 掲げた手の甲をまじまじ見つめるテスターに、セラがおずおずと問いかける。


「大丈夫……なの?」

「ああ、なんか痛みも一緒に消えた。ただ……」

「ただ?」


 テスターはひょいと肩をすくめ、


「気味が悪い。これなら穴開いたままの方が、よっぽどマシな気もするな」


 周囲の様子をうかがいながら、ゆっくりと立ち上がる。何者かが逃げていった方を向いて目を凝らしていると、気配は反対側からやってきた。


「お前たち、こんな所でなにをしている?」


 振り向くとそこには、ミホナ村に向かう途中で出会った男が立っていた。

 こちらが返事をするより早く、彼は不可解な顔で続けてくる。


()()()()()()()()、ここはよそ者が来る所じゃない。昨日(きのう)、悪魔の男を葬ったばかりなんだ」


 男の顔からは、緊張や警戒感が漂っていた。まるで初対面の者に対する反応だ。明らかに、テスターとセラに会ったことを忘れている。


(というか、()()ってどういうことだ?)


 得られた情報では、村人たちが悪魔の男を葬ってから、かなりの日数が()っているはずだった。

 セラも疑問に思ったのか、眉をひそめて男に問う。


「悪魔の男って……アルファードさんのことですよね?」

「いや、あいつは……」


 男はすかさず否定しようとし、そんな自分をいぶかった。頭に片手を当て、


「……? おかしいな。名前が思い出せない」

「葬ったって、殺したってことですよね? どうしてですか?」

「やつは呪術師だった。村に災いをもたらしたんだ」


 それだけは確実だとばかりに、男が断言する。


「自分で名乗ったんですか? 呪術師だと」

「名乗るわけないさ。だけどやつは(じゅ)()を栽培してたし、なにより異教徒だ。そこへきて、村では奇怪な事件が相次いで……あいつが原因に決まってるだろう?」

「……そんな決まり方、馬鹿げてる」

「なんだと?」


 ほとんど独り言のようなセラの言葉に、男が過敏に反応する。それは取りも直さず、彼自身が、なにか思うところがあるという証左であった。


「なんなんだお前たちは、さっきから。こんな所をうろつかれては目障りだ。部外者は引っ込んで――」

「それは私の台詞(せりふ)よ!」


 男が全てを言い終える前に、糾弾にも近い声音で割り込みが入る。

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