表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第6章 僕らの夏休み
302/389

5.新世界にて④ 光のカーテンが揺らめく中

◇ ◇ ◇


(なんだ?)


 突然様子の変わった明美を見て、テスターは眉根を寄せた。

 テスターらが今いるのは、北欧をテーマとした部屋だ。立体描画と映像、光を駆使して、オーロラが夜空を幻想的に舞う様を表現している。

 光のカーテンが揺らめく中、明美はなにかを探るように、きょろきょろと辺りを見回していた。その先鋭的なまなざしに思う。確証はないが――


(あれは、女神様か……?)


 それが確信へと変わる前に、彼女がぱっとテスターを向いた。かち合った目線をそらさぬまま、迷いなくこちらへと歩いてくる。その間に何人もの客を挟もうと、彼らを突き抜けて視線が刺さってくる錯覚を、テスターは覚えた。


「リュートたちはどうした?」


 目の前までやってきた彼女が、詰問するように言ってきた。その口調に彼女が女神であると確信しながら、テスターは小声で答えを返す。


(ほう)(ろう)(せき)を探しています」

「あの(むすめ)か!」


 女神は合点がいったというふうに吐き出すと、身を翻して走りだした。

 状況に置いていかれた銀貨が、慌ててこちらへと向かってくる。それをちらりと確認してから、テスターは女神に並走した。


「どういうことですっ?」

(ほう)(ろう)(せき)と思われるゆがみは、私も感じた。しかしその()()()()()がおかしい――原因はたぶん、(おに)(むすめ)だ」

「さっぱり意味が分かりません」


 率直なお手上げ宣言に、女神が言葉を重ねようとする。

 しかしその時突然、視界が揺れだした。一瞬目まいでも起きたのかと思ったが、違うらしい。床も壁も、建物全体が揺れている。


「地震です、止まってくださいっ」


 走れないほどではないし、通路には特に危ないものもない。それでもテスターは、女神の腕をつかんで引き止めた。

 振り向くと銀貨も立ち止まって、壁にもたれるようにしてこちらを見ていた。


「あやつは捨て置け。安心しろ、揺れはすぐに収まる」


 女神の言葉を受けて、テスターは申し訳ないと思いつつも銀貨に声を投げた。


「山本! 危ないからそこで待っててくれ!」


 言い終える前に走りだす女神に、テスターも続く。彼女の内からにじみ出る焦りが、テスターの焦燥感もかき立てていた。

 揺れは女神の言う通りすぐに収まった。網の目に組まれた道の最短距離を進んでいるのか、女神の進みに迷いはない。彼女は走りながら、先ほどの続きを語りだした。


(ほう)(ろう)(せき)はあらゆる次元をまたぐ。その存在自体が矛盾。無限に広がりながらにして極限まで収束していく。未熟な(おに)(むすめ)は、その存在矛盾に対して己の力が干渉するのを抑えられないだろう」

「要はアスラを(ほう)(ろう)(せき)から引き離せばいいってことですね?」

「……もう遅い」


 苦々しくうめく女神。その視線の先には開け放たれた扉があり、部屋からは激しい明滅を繰り返す光が放たれていた。そのため内部の状況把握は困難であったが、テスターは(かろ)うじて、光の中に複数の人影を捉えた。


(なんだあの光。あれも施設の演出なのか?)

「ここにいてください!」


 混乱しつつも女神にそう言い残し、部屋へと急ぐ。室内にいる彼らも動揺しているらしい。「なんだよこれ!」「知らないわよ!」などと、リュートやセラの声が漏れ聞こえてくる。

 極めつけの出来事は、テスターが部屋に足を踏み入れた時に起こった。

 ばぢぢっと音を立て、中央にある結晶体――恐らくは(ほう)(ろう)(せき)から、放電する球体のようなものが飛び出てくる。その際の衝撃か結晶体の一部が砕け、アスラに破片が降りかかった。

 放電体の方はセラに襲いかかるが、割り込んだリュートが左腕でそれをはじいた――かと思えば、ばぢっと彼の身体(からだ)がはじき飛ばされた。


「リューく――」


 明滅する光の中、アスラの身体(からだ)が乱れた映像のようにぶれて、発した言葉ごとその姿がかき消える。


(っ⁉)

「なっ……⁉」


 リュートが(がく)(ぜん)とした声を上げて立ち上がり、アスラのいた場所へ飛び出――す前に、彼の姿も消失する。


「お兄ちゃんっ⁉」


 甲高い悲鳴を上げるセラ。

 ()(とう)の展開に(ぼう)(ぜん)としていたテスターは、その悲鳴を聞いて我に返った。


「セラ! (ほう)(ろう)(せき)から離れろっ!」


 本当なら女神を連れて撤退すべきだった。

 しかし気づいた時には、リュートが消えた場所に飛びつくセラへと、テスターもまた足を向けていた。

 途方に暮れた顔でこちらを振り向く彼女と、目が合う。その絶望的な視線になにかを返す前に、彼女の姿がゆがんで消えた。そして、


「セ――」


 名を呼ぶことすらできずに、テスターの意識はぶつ切りに途絶えた。


◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ