5.新世界にて② 星躔ドーム
◇ ◇ ◇
暗い空間に散らばる数多の光。
白や青、赤に橙。色とりどりの光が漆黒のキャンバスで輝いている。自らの存在を叫ぶように。
長時間並んでようやく入館できた星躔ドームは、星躔の名を冠するだけあって、内部が星々で埋め尽くされていた。壁も床も天井も、全てに宇宙が描かれており、ガス星雲の類いも見受けられた。
ドーム内にある複数の部屋は、それぞれテーマにのっとった内装になっている。リュートたちが今いる部屋は、宇宙空間をテーマとしていた。
(女神もまた、罪作りなものを生み出したよな)
きらめく星々に目をやりながら、リュートはそんなことを思った。
銀河から始まる人類の物語。そこから生まれる、地球外生命体へのロマン。
だけど全ては逆で、箱庭である地球が創られ、その存在矛盾を解消するために生まれ拡がったひずみが銀河だ。
女神いわく、地球以外でヒトガタに相当する生命体が生まれることはないという。それを知らぬ地球人は、今でも銀河の果てにいるかもしれない仲間を夢見る。
(……の割に違う星どころか違う次元からやってきた人間には手厳しくドライに接するんだから、よく分かんねーよな)
結局ロマンなんて、日常に落とし込まれてしまえば価値がなくなってしまうものなのだろう。
「お兄ちゃん、ぼーっとしてないで。見失うわよ」
「分かってるよ」
セラの注意を口では適当に受け流し、内心慌てて前方に目をやるリュート。
リュートたちから数メートルの距離を挟んで、銀貨と明美が前方を歩いていた。
入館前は規制のため列をなして並んでいたが、入ってしまえばドーム内を自由に行き来できる。そのためリュートたちは銀貨に約束したとおり、彼らと付かず離れずの距離を保ちつつ館内を巡っていた。
そして、明美の護衛とは別口の任務がもうひとつ。
「どうだアスラ。なにか感じるか?」
「んー……感じるよーな感じないよーな?」
「しっかりしてよね。あなただけが頼りなんだから」
リュートたちはアスラの助けを借りて、放浪石を探していた。
――話を遡ること4日前。銀貨と明美の体験入学を終えた日のことだ。
夕食後に明美から着信があり、『アタラクシア』というテーマパークに行きたいと相談を受けた。本来そういった事項はセシルに直談判してもらった方が話がスムーズなのだが、まあ相談しにくかったのだろう。その気持ちは非常によく分かる。
なので代わりにセシルに伝えたところ、承認とともに放浪石の存在確認の命も受けた。ちょうど確認のため、誰かを派遣しようとしていたところだったらしい。
こんな人混みにアスラを連れ出したのも、放浪石が発する微弱なゆがみを遠くからでも感知できる、彼女の認知力が必要だったからだ。
「あっ」
アスラがなにかに気づいたように声を上げ、
「こっち。こっちにあるよ」
頭を小刻みに動かして方向を調整しながら、リュートらを手招きする。ただしそちらに進めば、銀貨たちのたどるコースからそれることになる。
テスターが、前方の明美を目で指し示す。
「俺が見てるよ」
「頼んだ」
手早く分担し、リュートとセラはアスラの後を追った。
細い通路を通り、いくつかの部屋を抜けていき、最終的にたどり着いたのは。
「立ち入り禁止になってるわね」
通路に張られたロープを見て、セラが肩をすくめる。
「リニューアルオープンっつっても、順次公開のスタイルみたいだしな。放浪石は未公開の部屋にあるんじゃないか」
パンフレット隅に書かれた注意事項を思い出しながら、リュートは意見を述べた。
「でも本物だってことは分かったし、十分だろ。あとはセシルに任せれば――」
「ほらこっちだって! 早くー!」
ロープをまたいで駆けだすアスラ。
「おいっ⁉」
「ちょ、ちょっとアスラ⁉」
セラとふたり、慌ててアスラを追いかける。監視カメラがありませんようにと祈りながら。
幸いにしてアスラはすぐに立ち止まった。どうやら突き当たりの扉にかち合ったらしく、ドアノブをがちゃつかせている。
(そりゃそうだよな。立ち入り禁止なんだから、鍵くらいはかけるよな)
鉄壁の護りに、ほっと安堵したのもつかの間。
ばぎゃぎぃっ! という破壊音がした。たぶんだが、鉄壁の護りが撃砕される音だ。




