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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第6章 僕らの夏休み
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4.アタラクシア⑦ 二度は繰り返さねえよ!

(営業妨害の苦情はめんどくせえんだよな……)


 気は進まないが仕方ない。駆けだしながらブザーの警報音を鳴らす。


(げん)(しゅつ)です! 速やかに屋外へ退避してください! アトラクションの演出ではありません! 次元生物排除法にのっとり、世界守衛機関(WGO)の権限において、早急な避難を求めます!」


 リュートは声を張り上げ、ブザー付属の簡易ライトを点灯させた。周囲を完全に照らすには足りないが、走る分には問題ない。

 暗闇の先にうごめく影を見つけ、足は()めぬまま()(けん)を発動させる。


(アスラが追いついてくる前に片をつける)


 というのが最近の心がけだった。仲間が排除される姿を、できるだけアスラに見せたくはない……それは手前勝手な配慮なのだと分かってはいたが、そうでもしないと動きが鈍ってしまうのだ。

 ()(しん)に接近したところで振りかぶった()(けん)が――がぎんっ、となにかに引っかかる。


「っ⁉」


 見ると天井からつり下がったフックに、()(けん)の剣先が引っかかっていた。


(くそっ、鬱陶しい!)


 舌打ちをし、()(けん)をてこに身を持ち上げるリュート。元いた場所に()(しん)が突っ込むのを見届けると、手首をひねって()(けん)を引き抜いた。そのまま()(しん)の背後へと降り立ち、()(けん)を横()ぎに払う。

 排除の感触を得た瞬間、後方に次元のずれる気配。かつては動揺して対処を誤った。


(さすがに二度は繰り返さねえよ!)


 とどめの一撃を振り切ったその流れのまま振り向き、新たな(げん)(しゅつ)地点へと駆けだす。

 2体目の()(しん)(げん)(しゅつ)座標からすでに移動し、予想よりも速くこちらの近くに迫っていた。

 リュートは踏み込みをして()(けん)を低く払い――


「うわっ⁉ 俺違うって! 人間人間っ!」


 白い巨人はくぐもった声で否定し、両手を上げた。

 ()(しん)ではない。ただの着ぐるみだ。


「地球人っ⁉」


 理解は遅れたものの、身体(からだ)はなんとか反応していた。

 偽()(しん)に迫る()(けん)(つか)――それを握る手首をとっさに蹴り上げて。

 そこまでならまだ、立て直しも容易だった。しかし、


「ぅわあっ⁉」

「はっ? おい馬鹿! こっちに来っ――」


 足をもつれさせたらしい地球人が、あろうことかこちらに倒れ込んできた。

 蹴り足の立て直しも半ばの状態で、対処できるはずもなく。

 せめて安全のため()(けん)は放り捨て――地球人に()()でもさせたら(しゃ)()にもならない――容赦なく地球人の下敷きになってから、リュートは必死に彼を押しのけ起き上がった。


「どいてください! ここは危険です!」


 全力で罵ってやりたい気持ちを(かろ)うじて抑え込み、地球人から離れるように右に跳ぶ。動作に揺れて荒ぶる簡易ライトの光が、床に転がる()(けん)を一瞬捉えた。

 運のいいことに進路と重なっていたそれを、通り過ぎざま拾い上げるリュート。カートリッジを挿し込んで再度()(けん)を発動させ、近づいてきていた()(しん)の腹を()ぐ。

 次元のゆがみが戻ったことを確認し、もう次はないことも確信してから。

 ()(けん)を解除するよりも先に、リュートは地球人を振り返った。


「俺の退避勧告、聞こえてなかったんですか?」


 丁寧な口調ではあっても非難の気配が漏れていたのか、地球人は自己弁護するようにわたわたと手を振った。先端にいくにつれ腕周りが太くなっている、白いもこもこした両手を。


「いやあ、聞こえてはいたんだけど……」

「だけど?」

「せっかくだから、排除を間近で見てみたいなって」

「やめてください特にその不格好な鬼の姿でうろつくのは」

「ほんとそうだよ! リュー君の言う通り!」


 小走りで駆け寄ってきたアスラが、地球人に厳しい顔を向ける。


「あたしの仲間はもっとかっこいいもん、こんな不気味な出来損ないじゃないよ! 《()》はもっと情熱的な赤色をしていて(しん)(ぼく)の因子を熱く焦がすし、爪だって洗練されたとがり方で(しん)(ぼく)の肉を鋭く引き裂くんだからっ! ね、リュー君っ!」


 地球人がいるためアスラに返答できないことに、リュートは大層感謝した(でなきゃどううなずけというのか)。

 アスラを認識できない地球人は、当然アスラの怒りも素通りして、リュートに言葉を返してきた。


「だから悪かったって。反省の(あか)しに、斬られそうになったこと黙っててやるからさ」


 それはお前の自業自得だろ。

 とはさすがに言えず、「今後気をつけてくださいね」とだけ返して、リュートは()(けん)を解除した。

 だからこういう場所は嫌いなんだ、と胸中で愚痴りながら。


◇ ◇ ◇

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