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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第6章 僕らの夏休み
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4.アタラクシア⑤ え、本気か?

◇ ◇ ◇


 館内は冷房が必要以上に効いているのか、夏にもかかわらず肌寒い。

 薄闇の中をすたすた歩きながら、セラはいらいらと下唇を()んだ。


「まったくもう、勝手してくれちゃって」


 両サイドからわっと現れたゾンビを、歯牙にもかけず通り過ぎる。お化けの見た目が拍子抜けするほどチープで、ひそかに(いだ)いていた期待をこそぎ落とされたのも、セラの不機嫌に拍車をかけていた。


「そうカッカするなって」


 隣を行くテスターが、(のん)()に声を上げる。通り過ぎたゾンビに手を振りながら、


「少しくらい『お兄ちゃん』を貸してあげてもいいんじゃないか?」

「なによそれ、ブラコンじゃあるまいし」


 途端、テスターがごつっとつんのめる。


「大丈夫? もうっ、後ろ見ながら歩くからよ」


 半眼で注意すると、テスターはつまずいて遅れた分を早足で取り戻し、再び横に並んでからつぶやいてきた。


「え、本気か?」

「なにが?」

「いや、なんでもない」

「?」


 テスターの訳の分からない挙動については流し、セラは自分に言い聞かせるように述べた。


「別にもう、アスラがなにかをしでかすとか思ってるわけじゃないわよ。でも意図しないなにかが……って可能性も捨てきれないじゃない? 私がいれば――」

「君がいればリュートを(まも)れるって?」

「そういう……わけじゃないけど……」


 ズバリ聞かれると急速に自信を失ってしまい、下を向くセラ。


「お兄ちゃんが(しん)(ぼく)としての役割を果たそうっていうなら、私はもうそれを()めない……でも、怖いの」


 自分がなにを危惧しているのか。それだけは無視できない感情だと、顔を上げる。


「お兄ちゃんは人並み外れた回復力をもってるし、尋常でない痛みにも慣れている。だから簡単に捨て身にもなれる。ただでさえ守護騎士(ガーディアン)は、増血剤の濫用で寿命を縮めやすいのに……」

「リュートが生き急ぐのが心配だって? あいつは別に、君にそんな心配をしてほしいとは思ってないと思うぜ。自己責任って言葉の意味は、十分過ぎるほど分かってるだろ」

「別にそういうんじゃなくて……私はただ、10年先もお兄ちゃんと一緒にいたいだけ」


 きゅっと口を引き結び、思いをはせる。ただ家族との未来を思い描くことが、どうしてこうも難しく感じるのだろうか。

 セラの憂いを知ってか知らずか、テスターがあっけらかんと請け負った。


「大丈夫大丈夫。あいつしぶといから、ホウ酸団子食ったって死なないぜ」

「お兄ちゃんはゴキブリじゃないのよ……」


 あきれたトーンで返し、片眉を上げるセラ。

 それでもこんな場所で広げる話題でもないとは分かっていたので、セラは気を取り直してお化け屋敷に集中することにした。


(せっかく来たんだし、楽しまないとね)


 せっかく切り替えた気持ちをこけにするかのように、それは訪れた。


「っ……」


 日常茶飯事となっている違和感のプレッシャー。

 テスターに顔を向けると、彼はこくんとうなずいた。


「――(げん)(しゅつ)だ」


◇ ◇ ◇

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