4.アタラクシア② ありがた迷惑
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楽しみにしていた。
本当に本当に楽しみにしていた。
だから少しくらい恨みがましい目をしたって、罰は当たらないだろう。
「え……っと。ほんと悪いとは思ってる。思ってるけど仕方ねーんだ」
龍登が気まずげに頰をかく。
アタラクシアの正面ゲートを抜けた噴水前。
本来ならツーショット写真を撮っているはずの場所で、銀貨と明美は突然の乱入者たちに囲まれていた。
「いやあ。体験入学後すぐになにかあったら心証が悪いとかで、君らを護衛しなくちゃいけなくなってさ」
龍登と違ってあまり悪びれたふうもなく、自分の頭に手を当てるテスター。
「あ、でも安心してください。邪魔しちゃ悪いので、私たちは勝手に後を付いていくにとどめますので。もちろんなにかあれば話は別ですが」
たぶん全くなんとも思っていないようなあっさりとした顔で、瀬良が人さし指を立てる。
乱入3人組は訓練校の学生服を着ていたが、龍登とテスターの腰には緋剣が下げられていた。鬼排除の臨時権限者である――つまりは特別帯剣許可を得ている――ことを示す腕章を着けていることから考えても、冗談で言っているわけではないのだろうが。
「護衛って……ここ遊園地だよ?」
いぶかしげに辺りを見回すと、龍登がバッと視界に分け入ってくる。
「ほ、ほら遊園地なんて危ないだろっ? 悪の巣窟って感じで」
「限りなくファンシーな場所だけど」
「いやいやいや、そう見せかけての凶悪犯罪があったりなかったりするだろ。ほら見ろよあの着ぐるみ! 暗闇で懐中電灯照らしたら号泣もんの怖さだぜ!」
龍登が指さしたのは、ぽっちゃり体型が売りの猫――マスコットキャラクターのボアちゃんだ。
「全然怖くないけど」
半目で返すと、龍登はいっそう慌てたようだった。なんとしてでも説得したいらしいが、彼自身がその正当性に疑いをもっているのがありありとうかがえる。
「ありがた迷惑なアフターケアでごめんなー」
軽い調子のテスターに、合わせるように明美が笑う。
「ま、まあみんなで回るのも楽しいよね?」
「……そう、だね」
こちらの機嫌を取ろうと必死な龍登――正直新鮮で、ちょっと面白かった――を見て、思い直す。
そうだ。初っ端の調子は狂ってしまったが、この5人で遊ぶのなら、それはそれで楽しいではないか。
「よし、今日はみんなで思いっきり楽しもう!」
早々に切り替えて、銀貨はグッと拳を握った。
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