3.アスラのドキドキ☆2DAYS⑧ ごうごうと使命感の炎を燃やしている。
◇ ◇ ◇
――ここからは私もちゃんとゲームに参加しよう。
昨日発した己の宣言に責任をもち、セシルはできうる限りアスラの遊びに付き合っていた。
無論デスクワークの片手間であることに変わりはないが、その参加度合いは格段に上がり、自分でも驚くほどの誠実さでもって対応した。
ボードゲームにトランプに、アスラの思う存分一緒に遊んで。ついでに昼食も一緒に取って。
「シル君ってさあ、若くして長になったんだよね? なんか理由とかあったの? シル君がすごく強かったとか?」
アスラがそう言ったのは、彼女の組み立てていたジグソーパズルが終盤に差しかかったころだった。
午後ともなるとさすがに飽きてきたのか、アスラは応接テーブルにパズルのピースを広げて、完成させようとひとり熱中していた。構う必要がなくなった分、セシルとしては荷が下りるわけだが……
いかんせんこの少女、セシルがポケットマネーで取り寄せた大量のジグソーパズルを、驚異的な早さで遊び尽くしていくのだ。余裕を持って買っておいたはずが、すでに在庫も尽きかけている。
(ゲーム機でも買い与えた方が、手間がなかったかもしれないな)
今更ながらに悔やむ。
と、こちらに注がれるアスラの視線から、彼女が返事を待っていることを思い出す。その丸い目からは狡猾な下心は感じられず、単に好奇心からの疑問であることがうかがえた。
ソファから上半身だけを振り向かせているアスラに、セシルは肩をすくめて答える。
「吹聴できるような理由があるわけでもない。当時長だった父が、亡くなる直前に私を後継に指名した。それだけだ」
「ふーん。じゃあやっぱり、次の長はリュー君かセラちゃん?」
「だとしたら彼らを始末するのか?」
いやらしく聞き返すと、アスラは怒ったようだった。頰を膨らませ、
「そんなことしないよ絶対に! シル君だってもう分かってるでしょ!」
「どうだろうな」
返しながらも確かに、セシルにはもう分かっていた。少なくとも彼女個人としては、神僕を葬ろうとする意志をもっていないことを。
しかし立場上、全幅の信頼を置くわけにもいかない。
そしてそのことを、アスラも分かっている。
形ばかりのかけ合いを終えた時、部屋の外に気配を感じた。
セシルがアスラに目配せを送ると、彼女は抗弁ひとつせず、再びカーテンの裏へと身を隠した。カーテンが閉じられたことで、部屋がわずかに暗くなる。
ノックに返事に入室の断り。午前と全く同じことを繰り返して、入ってきた訪問者だけは変化を見せていた。
定時報告等を受け持つ、世界守衛機関の事務局員だ。午前やってきた男と同じような業務をこなすが、こちらの方には時折、秘書のような役割もこなしてもらっている。
雑務であろうとなかろうと、淡泊に業務をこなしていく青年を、セシルは結構気に入っていた。応接テーブルのジグソーパズルに気づかないはずがないのに、そのそぶりも見せはしないことも含めて。
(歯車さえ嚙み合っていれば、優秀な守護騎士になれたであろうに)
無駄のない力で芯の通ったたたずまいを見せる青年の姿に、セシルは数瞬憐憫の情を寄せた。保有因子比率が高いにもかかわらず、神気が限りなく弱い――つまりは緋剣を発動後維持できないという不運は、彼から早々に守護騎士への道を奪った。
だからなのか、堕神討伐に対する彼の執念には、並々ならぬものを感じさせられた。本人が開けっ広げに示しているわけではない。ただ内に秘め、ごうごうと使命感の炎を燃やしている。そしてその火の粉が漏れいでているのだ。
それもまた、セシルが気に入っている点のひとつだった。義憤に駆られ暴走するほどの熱を持ちながら、組織の中で冷静に動く。都合が良いことこの上ない。