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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第6章 僕らの夏休み
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3.アスラのドキドキ☆2DAYS① よっし、今日のスタートっ!

◇ ◇ ◇


 パチンと最後のピースをはめ込むと、それは完全に姿を現した。


「でーきたっ!」


 アスラはローテーブルの上に身を乗り出し、完成したばかりのジグソーパズルを真上から眺めた。

 流氷に寝そべるシロクマの写真。毛に覆われた目が気持ちよさそうに細められており、ぎゅっと抱き締めたくなるようなかわいさを醸し出している。


「へへっ、アスラ動物園にシロクマちゃん追加ー♪」


 ぱんと両手を合わせ、弾んだ声を上げる。(のり)づけして額に入れれば完璧だ。


「どこに飾ろっかなー♪」


 室内を見渡す。すでに壁一面には、大量のジグソーパズルが飾られている。イヌ、ネコ、リス、ゾウ、ライオンなどなど、さまざまな動物の写真だ。最初の一点から日を追うごとに増えていき、ついにはここまでの数となった。


(そりゃそうだよね、毎晩やってるもん)


 睡眠を必要としない自分にとって、夜はただただ退屈な時間だ。あまりに暇なのでセラに泣きついたところ、ジグソーパズルを一点くれた。やってみると思っていた以上に楽しかったので、セシルに新しいパズルをねだった。その積み重ねがこの結果だ。

 シロクマの代わりにどれかを外そうかとも思ったが、


(……駄目! どれもかわいい!)


 高度な価値判断により却下した。

 かといってこのままではシロクマを飾ることもできず、首を傾け思案する。限界まで傾けたところで、アスラはカーテンの隙間から差し込む光にようやく気づいた。


「あ、もう朝だっ」


 ジグソーパズルに夢中で、今まで全然気がつかなかった。

 ポケットから懐中時計を取り出して蓋を()ける。針は7時すぎを指していた。


「よっし、今日のスタートっ!」


 アスラは拳を突き上げると、部屋の外へと飛び出した。

 廊下を一気に駆け抜け、重々しい扉を開け放つ。


「おっはよーシル君っ!」


 指の付け根が裂けんばかりに手を(ひら)き、アスラは部屋――総代表執務室の(あるじ)へと元気よく呼びかけた。


「おはよう」


 執務机から返ってくる事務的な声。いつものやり取りだ。

 だからいつも通り、挨拶を終えるとすぐ反転した。


「じゃああたし、リュー君の所に行ってくるね♪」

「待ちなさい」


 そう引き止められるのは、いつもの流れにはない展開だった。

 アスラがつんのめるようにして振り向くと、セシルが――驚いたことに――執務机越しにこちらを見ていた。


「なあにシル君?」


 朝の挨拶をどれだけ繰り返しても、手元の書類から目も離さなかったセシルが、今はアスラを正面から見据えている。

 驚きとともにうれしくて、アスラは笑顔で彼に尋ねた。

 笑顔の返しは期待していなかったとはいえ、それにしたってやたら淡泊な顔で、セシルは答えてきた。


「今日と明日(あす)は、リュートたちに会うのは控えてもらいたい。もっと言えば、できればこの建物からも出ないでほしい」

「えっ⁉ なんでっ?」

「体験入学のため、地球人学生が訓練校(ここ)にやってくる予定だ。地球人に視認できない君がいると、いろいろと厄介なんでね」

「そんなぁ……」


 アスラはがっくりと肩を落とした。


「たまには全く会わない日があってもいいんじゃないかね」

「嫌だよ寂しいもんっ」


 即答する。

 頰を膨らませるアスラを、セシルはじっと観察し、その後口元を少し緩めた。


「リュートが好きなのだろう? だったら良い機会ではないか?」

「え?」

「いつもそばにいる君が、なぜだか会いに来てくれない。(さび)しい思いをさせてやれば、リュートも君を恋しく思うだろう」


 アスラはセシルの言葉をしばし吟味し、


「ほんとに?」


 上目遣いでそう聞いた。セシルが自信を示すように、大きくうなずく。


「ああ保証する。彼は単純だからな」

「じゃああたし我慢するっ」


 宣言して、アスラは執務机まで駆け戻った。


「その代わりってわけでもないけど」


 机越しに身を乗り出し、セシルへと顔を近づける。腕に押された書類の山が、形を崩した。


「シル君があたしと遊んでくれる? ひとりじゃつまんないんだもん」


 セシルは崩れかけた書類の山を直しながら、特に感情もなく答えてきた。


「仕事があるが、できるだけのことはしよう」

「やったぁっ! せっかくの機会だし、あたしたちの仲も深めよーね♪」


 アスラの心はうっきうきに躍った。


◇ ◇ ◇

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