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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第6章 僕らの夏休み
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2.楽しい体験入学~2日目~⑩ そんなこと言うけどさ。

◇ ◇ ◇


 授業も終わって解散し、いつものメンバーだけになると。


「まさか現役の守護騎士(ガーディアン)に会えるとは思わなかった! しかも僕は()(けん)持ってないからって、護身術っぽいことを教えてくれたんだ。感動モノだよ! サインもらっとけばよかったかな? あ、あと握手も。いやいやもしかしたら、アドレス交換とかできたかもしれない……あー! 馬鹿な僕! なんで駄目元で言ってみなかったんだろ。馬鹿馬鹿馬鹿っ!」


 耐えかねたように興奮を爆発させる銀貨。目の色が変わっていて、もはやテンションもおかしい。


「やっぱすごいね現役の守護騎士(ガーディアン)はっ! オーラが違うよオーラが!」

「あーあー半端者のエセ守護騎士(ガーディアン)ですみませんね」

「いいじゃないですかリュート様は。アシスタントなんて、オーラ以前の問題みたいですよ」


 リュートは腕を組み、セラとふたりして冷めたまなざしを銀貨へと送った。


「あ、ごめんふたりとも。そんなつもりはなくてっ……」


 銀貨が我に返り、慌ててフォローを入れようとする。

 が、セラはもう本気ですねる段階は通り過ぎたようで、特に追及することもなく嘆息ひとつで終わらせた。


「そんなことより山本さん。待ちに待ったお楽しみの時間ですよ」

「え?」

「ほら」


 セラが指さす方向に、銀貨が顔を向けると。

 運動場を横切って、ひとりの男性――制服から事務局員と知れた――がこちらへと歩いてきていた。カメラと三脚を抱えている。


「記念写真だ!」


 歓喜の声を上げ、銀貨がぱたぱたと制服をはたきだす。

 促されるように、リュートたちもある程度の身だしなみを整え始めた。といってもリュートの場合は包帯まみれの砂まみれなので、どれほど頑張っても高が知れてはいたが。


「皆さん、少しよろしいですか」


 到着した事務局員が、口を(ひら)く。


「事前にお伝えしていた記念撮影を行いたいと思います。そちらに並んでいただけますか」


 言われるままに、アスレチックを背に全員並ぶ。左からテスター、リュート、銀貨、明美、セラといった順だ。

 事務局員が三脚をセットしている間、銀貨がそわそわとしだした。

 リュートは気にせず前を見た。

 隣から感じる期待のプレッシャー。

 リュートは努めてそれを受け流す。

 隣から聞こえてくる「いいなぁ……」というつぶやき。

 リュートは努めてそれを――

 ……ため息をつく。

 こちらの腰元に注がれるまなざしを、はねのける(すべ)も見つからず。


「……今だけだぞ」


 根負けしたリュートは、()(けん)を抜いて銀貨に渡した。


「ありがとう(りゅう)()君っ」


 ほくほく顔で受け取り、決めポーズを探りだす銀貨。


(だからそんなポーズ取る守護騎士(ガーディアン)いねえっての……)


 あきれるものの()めるのも大人げない気がして、もうなにも言わないことにした。

 やがてポーズが決まったのか、銀貨が()(けん)を逆手に持ち直し、ぽそっとつぶやく。


「地球人と(わたり)(びと)。この交流で少しは、いい関係に近づいたかな」

「そんな簡単なものでもないだろ」


 ごくごく一般論を言うと、銀貨はなんでもないことのように後を続けた。


「少しずつでも変えていけばいいんだよ。僕らの世代からさ」

「ははっ。そりゃ頼もしいねえ」

「そうなったら私もうれしいな」


 テスターが笑い、明美も賛同する。と、


「みーんなー!」


 事務局員の来た道を(ちゅう)(じつ)になぞり、アスラが手を振り駆け込んでくる。

 リュートたちの前まで来ると、彼女は跳び上がってリュートの背後に着地した。そのまま後ろから抱きついてくる。


「ひっどいなあ! あたし抜きでの記念写真だなんて。あたしも入れてよぉ」

「っ……く、食い込んでる。指。傷口に」


 叫びかけた声をのみ込み、リュートはか細い声で()()()を発した。


「あ、ごめんリュー君っ」


 慌てて二の腕から手を移動させるアスラ。抱きつくのはやめなかったが。


「どうしたの(りゅう)()君」

「いや別に」


 不思議そうにこちらを見てくる銀貨に、リュートは平静を装って返した。


「きっねん写真♪ きっねん写真♪」


 耳元でアスラが口ずさむ。


(別に大丈夫……だよな?)


 アスラは写真に写らない。それに関してはすでに何度も試して確認済みだ。逆に彼女の姿を収めたい場合は、現像時に特殊処理を挟むことで可能となることも分かっている。

 幸い、事務局員が持っているのはフィルムカメラだ。もしかしたらセシルの指示なのかもしれない。

 となれば特段、アスラを拒否する理由もない。立ち位置的に、不自然な空白ができるということもないだろう。

 なによりこんな楽しそうなアスラに「君は駄目だ」というのは気が引けた。

 そして心から楽しそうな者がもうひとり。

 銀貨が()(けん)(けん)(しん)をなでつつ、しみじみと語る。


「楽しかったなあ、体験入学。また来てもいい?」

「来んな」

「丁重にお断りします」


 セラと共にすかさず拒否すると、テスターが、にししと口を挟んできた。


「そんなこと言うけどさ。ほんとはお前らも楽しかったんじゃないか?」


 そう言われると完全否定もできず、


「……まあ」

「……少しは」


 セラと顔を見合わせ、不承不承うなずく。


「あたしも楽しかったよー♪ 聞きたい? リュー君聞きたい? ていうか(さび)しかった?」


 のしかかってくるアスラに全力で抵抗しながら、リュートは小さく答えた。


「あ、ああ。後でな」

「え、なに(りゅう)()君?」

「だからなんでもない」

「あのー。もう撮ってもいいですか?」


 わちゃわちゃしていたものだから、事務局員が少しいら立たしげに()かしてきた。


「すみません、お願いします」


 慌てて前を向き、姿勢を整える。


(……そうだよな。俺には今がある)


 取り返せない空白など、考えたって仕方ない。埋められる今があるならそれでいい。

 そしてきっとこんな記録写真ですら、懐かしく振り返る日が来るのだろう。これからの自分に空白はないのだから。


◇ ◇ ◇

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