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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第6章 僕らの夏休み
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2.楽しい体験入学~2日目~⑨ その場所に、リュートだけがいなかった。

◇ ◇ ◇


 考えてみたことはあった。かつての同期はどう成長したのかと。

 エリザベスに関しては、だいぶひいきが入っていたと思う。が、実際に成長した彼女を見てみると、むしろ控えめな想像だったということが分かった。


 ショートだった桃色の髪は、今は肩周りで豊かに波打ち、よりいっそう華やかな印象を与えるようになった。サファイアのように(あお)い目は、見つめられたら(うそ)も見透かされそうだ。物腰からたおやかな雰囲気を漂わせる一方で、周囲を()きつける笑みからは、譲らない意志の強さも感じさせる。


 まぶしい、とてもまぶしい存在だった。少なくとも隣に座った自分が、とてつもなく卑小な存在に思える程度には。

 アスレチックにふたり腰掛け、訓練に励む仲間を見下ろしながら、リュートはそんな思いにとらわれていた。

 しばらくするとエリザベスが、頭の包帯に目をやり聞いてきた。


「その()()どうしたの?」

「キルエ教官に……」

「あー、あの忍び教官」


 なにかを思い出しているのか、困ったように顔を緩めるエリザベス。


「仲間からだいぶ不評も買ってるみたいだし、その様子だと、よっぽどのことをしたみたいね」

「間違って、教官に1発かましてしまいまして」


 エリザベスは、ぷっと吹き出した。


「やるじゃん」


 そのまま、こちらの顔をじっと見つめてくる。彼女の瞳に自分の姿が収まることは二度とないと思っていたので、リュートは変に緊張した。


「あなたを見てると、昔の仲間を思い出すわ。同じ黒髪で、いっつもグレイガン教官にどやされてた」


 懐かしいものを思い出しているまなざし。

 それを見て気づく。エリザベスはリュートの顔ではなく、黒髪を見ていたのだ。


「昔の仲間?」


 彼女は嘆息すると、こちらから目をそらした。


「事故で死んじゃったんだけどね。学長の子どもだったんじゃないかって、当時は(うわさ)されてたわ」

「お察しします」


 後ろめたさをごまかすように、リュートは定型の言葉を送った。その後に本音が続きそうになり、とっさに言葉をのみ込む。

 が、結局は(しゅん)(じゅん)を挟んだ後、


「友達だったんですか?」


 この際だから聞いてみる。(しん)(ぼく)は全体でひとつの家族のようなものだが、だからみんな親友というわけでもない。

 彼女にとって、リアムはどんな存在だったのか。

 エリザベスは顎に指を当て、考え込むように空を見上げた。


「……ちょっと好きだったかな」

「え?」

「ちょっとね。子ども心にってやつ」


 言ってこちらに笑いかける顔は、(ゆう)()を受けて(しゅ)に染まっていた。


「あ、このことレオに言っちゃだめよ? 彼ってばすぐ()くんだから」

「ごちそうさまです」


 (かい)()()えるふたりの関係性に、リュートは複雑な思いで苦笑を返した。


「そろそろ終わりね。結局ほとんどレオに任せちゃったけど」


 エリザベスが、すくっと立ち上がる。伸びをしてこちらを見下ろし、


「今日は楽しかったわ。有望な後輩君にも会えたしね」


 後ろ手に手を振り、5メートル下の地面へと足を踏み出した。無駄を感じさせない軽やかな着地を見せると、もう一度だけこちらに手を振り、レオナルドの元へと向かっていった。

 なんだかんだでレオナルドは、いい教官ぶりを発揮しているようだった。ここから見える範囲でも、()(けん)の使い方から()(しん)(あい)(たい)()の対応まで、指導の幅は事細かい。

 教わる後輩、教える先輩。

 その場所に、リュートだけがいなかった。


「……後輩君か」


 座り込んだまま、再度苦笑する。とっくに受け入れたつもりだったが、こんな時は5年間の空白を感じさせられた。

 レオナルドが手を上げ、声がけを始める。

 今日の授業は無事終わったようだ。


◇ ◇ ◇

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