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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第6章 僕らの夏休み
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2.楽しい体験入学~2日目~⑦ これオフレコでよろしくな。

 明美だ。

 こう言ってはなんだが驚いた。

 彼女が(わたり)(びと)について無関心だとは、さすがに思ってはいない。しかしこういった場で積極的に質問するほど、興味を(いだ)いているとも思っていなかったのだ。


「あなたたちは確か、体験入学の学生さんね」


 エリザベスが(ほほ)()む。単発とはいえ教官を担う以上、その辺りの情報も入念にチェックしているらしい。


「それじゃあ遠慮なくどうぞ。まずはお嬢さんね」

「どんな小さな質問でも答えるぜ。あ、秘匿事項は勘弁な」

「えと、初歩的なことで恐縮なんですが……即応部隊ってなんですか?」


 おずおずと手を下ろしながら、明美。

 確かに初歩的な質問ではあった。銀貨にとっては常識だ。


「んー、そうね……(わたり)(びと)(げん)(しゅつ)を感知できるのは知ってるわよね?」


 会話の距離感を、物理的に近づけたかったのだろう。生徒の列を()(かい)しながら、エリザベスがこちらへとやって来る。レオナルドも続いたため、訓練生一同も合わせて反転した。

 その際に隣から舌打ちが聞こえてきたが、本当に気にしないことにしていたので、努めて無視した。

 明美の前まで来たエリザベスが、続きを講説する。


「私たち(わたり)(びと)の中には、さらにその一歩前――鬼が次元の(はざ)()に踏み込んだ時点で、感知できる者もいるの。そういった人たちは即応部隊として、主に交通網を中心として配備されるのよ」

「ま、エリート中のエリートってことだ」

「違うでしょレオ」


 うそぶくレオナルドの頭に、エリザベスが拳を当てる。


「感知能力は生来のもので、訓練でどうにかなるものじゃない。私たちはたまたまもって生まれた性質で、即応部隊に入れられたってだけ。地球人に加えて仲間の命もダイレクトに関わってくるから、神経張って疲れるだけよ」

「仲間の命?」


 ぴんとこないのか、明美が疑問符を浮かべる。

 レオナルドは軽い口調で、


「走ってる車の延長線上に、(げん)(しゅつ)が起きたとする。原則的に、地球人は素通りだよな。じゃあ(わたり)(びと)はどうなる?」


 言いながらパーの形に(ひら)いた左手に、右の握り拳を突っ込ませる。


(ぅげぇ……)


 銀貨は胸中でうめいた。

 即応部隊の意義を知らなかったわけではない。しかし具体的に想像したことはなかった。

 一番身近な守護騎士(ガーディアン)ということで、(りゅう)()が残念なことになるさまを脳裏に(えが)いてしまい、反射的に実物の(りゅう)()へと目がいく。

 そして気づいた。どういう訳か、(りゅう)()の機嫌は直っていた……というと語弊はあるだろうが、そう感じられる程度には感情を抑え込んでいた。


 彼は守護騎士(ガーディアン)として振る舞う時は『っぽい』言動を心がけているようなのだが、今はその時以上に整然とした態度で、まるでただの風景として溶け込み、目立たないようにしているように見えた。

 ただし銀貨の視線に気づいた時だけ、(りゅう)()はじとっとした視線を返してきたが。その目は「俺で想像してんじゃねえだろうな?」と語っていた。筒抜けだった。


 恐らくは明美も、(あわ)れな守護騎士(ガーディアン)の末路に関して、銀貨と似たような反応を示したのだろう。エリザベスが苦笑し、フォローするように片手を振る。


「そんな不運な死に方はめったにないけどね。それでももし本当にそうなったら、諦めるしかないわ」

「だから即応部隊の存在は必須なのさ。あらかじめ警戒できれば死亡率を減らせる。玉突き事故につながって、地球人からクレームが入る可能性もな」

「そんな、さすがにクレームなんて……」

「いや来るんだよなこれが……って、君に言うのは嫌みか。これオフレコでよろしくな」


 明美に向かっておどけたように、人さし指を口の前に持ってくるレオナルド。その後彼は、なにかに気づいたように辺りを見回し、


「っにしてもこの辺り、やたらめったら鬼がいるな」


 面倒くさげに頭をかいた。


「そうなんですか?」

「気持ち悪いくらいにね」


 不安そうに聞く明美に、エリザベスが肩をすくめて応じる。


「今日はお客さまもいるからな。場所を変えよう」


 レオナルドは銀貨と明美を(いち)(べつ)してから――目が合った瞬間、銀貨は一段テンションが上がった――()(けん)を抜くと、指示棒のように揺り動かした。


「ちなみに(げん)(しゅつ)したらお前らに狩ってもらうからなー。授業の一環だ」

「手抜きしたいのバレバレよ、レオ」

「いいじゃんかよ。1日教官の役得だ、役得」


 陽気に笑いながらも眼光鋭く周囲を警戒するレオナルドの姿に、銀貨の心は最高潮に高まっていた。


◇ ◇ ◇

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