表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第6章 僕らの夏休み
277/389

2.楽しい体験入学~2日目~⑥ 死ね。マジで死ね。

◇ ◇ ◇


(よし。今度はミスなくやるぞ)


 銀貨は気合を込めて拳を握った。

 先ほどは授業をめちゃくちゃにしてしまったが、今度はスマートフォンの電源も切り、準備も万全だ。

 今いる第2運動場は、昨日(きのう)見た特殊第1運動場とやらと違って、ごくごく普通の運動場であった。

 しかし隣にはもうひとつ大きな運動場――特殊第2運動場というらしい――があり、また近くには体育館らしき建物が4棟連なっているなど、地球人の『普通』とは一味違った、さすがの施設数を訓練校は誇っていた。

 そんな場所に今、自分はいる。そして、


(現役の守護騎士(ガーディアン)の話を聞ける!)


 しかも訓練生に混じって。それだけで(すい)(ぜん)ものの体験だ。

 整列状態で待機しながら、銀貨は胸を高鳴らせた。

 と、こちらへと歩いてくる、1組の男女が目に()まる。それぞれ男性は守護騎士(ガーディアン)の、女性はアシスタントの制服を身に着けていた。


(……来た!)


 自分の立ち位置が最後列のため、見えにくいのがもどかしい。

 銀貨は少しでも視覚情報を得ようと、(かかと)を上げたり、列の隙間から必死にのぞき見たりした。

 守護騎士(ガーディアン)の男性は長身で、そこらのモデルに引けを取らないような整った顔立ちだ。若葉色の髪も格好良くセットされている。

 さらにすごいのは、そんな彼に見劣りしないアシスタントの存在。後列からでも分かるほどの、ぱっちりとした二重。セミロングの巻き毛が、白い肌に桃色のアクセントをつけている。

 まごうことなき、美男美女の組み合わせだ。現役としてはまだ若手のようで、訓練校を卒業してから、そう何年も()っていないように見えた。


「今日の特別授業を担当する、守護騎士(ガーディアン)即応部隊のレオナルドだ」

「アシスタントのエリザベスです。ふたりとも14期生よ。よろしくね」

(かっこいいなあ)


 あまりに()()れていたから、隣で異変が生じていることに、すぐには気づかなかった。

 気づいて左を向くと、ギリギリときしむような音――というか雰囲気? を醸し出している(りゅう)()の姿があった。彼は引きつけを起こしたように細かく震えながら、両手の指を包帯に食い込ませ、がっしと頭を抱えていた。


「あっのクソ学長……死ね。マジで死ね」


 ぼそっと小さく、そんな言葉を聞いた気もする。

 少なくともその横顔から、(りゅう)()が怒り狂っているのは明白だった。

 しかしそれだけではないようだ。彼の目は怒りをたぎらせながら、混乱と動揺も交えているような、複雑な様相を呈していた。

 セラとテスターなら事情も知っているのではないかと視線を転ずるが、(りゅう)()の左に立つ彼らは、銀貨と同じく驚きと不審のまなざしで彼を見ていた。

 銀貨は意味がないとは知りつつも、右隣の明美へと顔を向けた。当然この状況を明美が説明できるわけもなく、彼女も身を乗り出して、(りゅう)()を心配そうに見ていた。

 仕方なく銀貨は、姿勢を正して前を向いた。


「にしてもなんだお前ら、やたら()()して。随分と弱っちい世代だな」


 ざっくりとこちらを見渡し、かははと笑うレオナルド。

 ()(たん)周囲が殺気立つ。ただしレオナルドに対してではない。

 今ここにいる40名の訓練生のうち、半分ほどはどこかしらに負傷・手当てのあとを残していた。顔を覚えているわけではないが、恐らくは(みな)、1限が銀貨たちと同じ授業だった者たちだろう。あの時の教官のキレっぷりはすさまじく、(りゅう)()は仲間から大きな恨みを買っているようだった。こうしてなにかにつけて(じゅ)()の念が届くほどに。


 それらの念を受け止めた(りゅう)()が、丸ごとこっちに回してくるのではないかと、恐る恐る横目で確認すると。

 (りゅう)()は全く気にしていない――というか気づいていないようで、怒りの矛先がこちらに向かってくることはなかった。ただし据えた目で地面をにらみつけ、彼の指先が食い込んだ包帯からは、傷が(ひら)いたのか血がにじみ始めていたが。


(こ、怖い……)


 ()()を感じ、今度こそは本当に気にしないようにしようと、レオナルドへと意識を集中させる。


「さて。せっかく来たんだし、なにか役立つことしないとな。取りあえずお前ら、なんか質問あるか?」


 行き当たりばったり感満載にレオナルドが聞いてくる。銀貨はすかさず手を挙げた。

 他にもぱらぱらと手が挙がる中、予想外の場所から反応があった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ