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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第6章 僕らの夏休み
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1.楽しい体験入学~1日目~⑦ たったそれだけじゃねえか。

◇ ◇ ◇


 そろそろ30分が()とうかというころ。

 リュートが運動場に戻ると、すでにおのおのの課題対象と共に、全員がその場に集まっていた。

 テスターはナッツの缶を抱え、ミルケは身体(からだ)から遠ざけるようにしてラットの入ったゲージを手に持ち、ユグドールは隣に――なぜ彼女なのかは知らないが――セラを立たせていた。


「っかぁー! なんだよおめえら。ちゃっかり全員解読できてんじゃねえか。ひとりくれえは空気を読んで脱落しろ! ギャラリーだってそういうのを期待してんだよ! なあっ⁉」

「い、いえ。私は別に……」

「ぼ、僕は訓練校の教官に会えただけで、もう感激ですからっ……」


 しどろもどろに答える明美たち。ただし、グレイガンの勢いに()されている明美と違い、銀貨の方は言葉通り本当に、感激故の緊張のようだが。


「それでリュート訓練生」


 リュートの同伴者が口を(ひら)く。


「グレイガン教官からの用事とは、なんなのだ? まさかとは思うが、私をだましたわけではあるまいな?」

「まさか。こちらの体験入学者にご挨拶をされてはとの、グレイガン教官からのご提案です」


 リュートは嫌みなくらいに姿勢を正し、手のひらを上向けて、銀貨たちのいる方を示した。


「おや、私としたことが気づかなかったよ」


 明美の存在に気づかないわけないだろうが、初対面を装うためだろう。セシルは銀貨と明美を見ると、(おお)()()に両手を広げた。


「失礼したね。私は学長のセシルだ。若輩ではあるが、(わたり)(びと)(おさ)も務めさせてもらっている」

「ぞ、存じております!」


 銀貨が声を裏返らせる。(はた)()にも分かるほど緊張の頂点に達しながら、銀貨は後を続けた。


「僕小さい頃、記録映像でカルテンベルクの誓いを()ました。()(ぜん)とスピーチするあなたの姿は、今でも目に焼きついていますっ!」

「うれしいことを言ってくれるね。私の言動をそこまで注視してくれる者など、ここの生徒にもいないかもしれないな」


 柔和な笑みを浮かべるセシルに、グレイガンがかぶさるように口を挟んだ。


「おらおら茶番はもう十分だ! 各自、とっとと課題を実行しやがれ!」

「って言われても……」

「なあ?」


 ミルケとユグドールが顔を見合わせる。彼らの心境は手に取るように分かり、リュートもまた、テスターと視線を交わしていた。


「どうしてまごつく? あとは実行するだけだろ?」


 グレイガンが腕を組み、にやにやと笑う。


「ナッツアレルギーのテスターはナッツをどか食いし、ネズミ恐怖症のミルケはラットと戯れて、女が苦手なユグドールは女と手を握り、学長に目をつけられているイカ墨小僧は学長をぶん殴る。たったそれだけじゃねえか」


 確かにたったそれだけだ。できる気がしないだけで。


(俺はまあ、マシっちゃマシだけど……)


 「ほう」と冷たい(あい)(づち)を打つセシルを横目に、打算する。

 リュートに課せられた『学長をぶん殴れ』という課題は正直、実行する分にはそこまで抵抗はない。

 しかしこんな理由で殴ったとあれば、どんな処罰が待っているか分からない。それこそ、グレイガンの被験者になる方がマシなくらいの罰を受ける可能性もある。だったら課題をこなす意味もない。

 テスターやAR専科のふたりも、同じように惑っているのだろう。テスターに至っては下手すればアナフィラキシーショックの恐れがあるのだから、当然だ。

 ようやく課題の全容が見えた明美と銀貨も、困ったように事の成り行きを見守っている。


「なんだ全員リタイアか?」


 4人全員、あと一歩で足踏みしている状態に、グレイガンは大きくため息をついた。

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