表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第6章 僕らの夏休み
267/389

1.楽しい体験入学~1日目~⑤ 言ってる方は、結構自覚ないものよね。

 確かに訓練校内においては、5回生に帯剣の義務はないし、リュートらもいつもは帯剣しない。が、今は地球人――なにより明美がそばにいる特殊な状況だ。いざという時を考え、リュートもテスターも帯剣していた。

 という事情を事細かに話す必要はさすがにないので、テスターがはしょって説明する。


「ちょっと事情がありまして。いやー、ほんとG専科はめんどくさいですよね」

「は? AR専科はそうでもないってか?」


 男子生徒が険悪な声を上げる。


「いえ違いますって。俺はただ――」


 取り繕おうとするテスターに、頼みもしない助け船を出したのは銀貨だった。ずいと両者の間に入り、


「テスター君はそういうつもりで言ったわけじゃないですよ。確かに守護騎士(ガーディアン)はいろいろと危険な目にも遭うし、アシスタントとは段違いのリスクを負ってるとは思うけど……」

「は?」

「俺らは楽してるって言いたいのか?」

「そういうわけじゃ。別に誰かが楽してるとかどうかじゃなく、ただ現実にそうですよねって話で――」

「お前もう息だけしてろ」


 ナチュラルにあおっていく銀貨を冷眼視して、今度はリュートが分け入った。目で銀貨のネームプレートを指し、


「すみません。彼地球人の来客なんです。だからこちらの事情は知らなくて。気分害されたなら謝ります」

「なに余裕かましてんだよ」

「つーかさ、なんでそんな上から目線なんだ?」

(どうしろってんだよ……)

「ちょっと失礼します」


 完全に(けん)()(ごし)な男子生徒らに会釈し、リュートはテスターとセラを手招きしながら後退した。念のためのついでに、銀貨や明美からも距離を取る。


「おいどうする? なんか変なプライド刺激しちまったのか、あいつらめっちゃ絡んでくるぞ」

「めんどくさいし、とにかく謝っとけばいいんじゃないか?」


 内容が漏れないよう小声で相談していると、


「そうかしら」


 ひとり意外な反応が返ってきた。


「言ってる方は、結構自覚ないものよね」


 澄ました顔で、でもなにかをたっぷり含ませてセラがつぶやく。


「おい、お前までなに言ってんだよ」

「ほんと、確かにG専科生は上から目線かも」


 リュートは困り果ててテスターを向いた。彼は肩をすくめるだけだ。


「おい、なにコソコソしてんだよ」


 肩をつかまれ、はっと振り返る。

 6回生たちは、もうファイルを抱えてはいなかった。まとめて道の脇に置き、両手を空けている。その必要があるというのは、こちらにとってあまり好ましくない展開だ。

 6回生たちが、じりじりと顔を近づけてくる。


「お前らみたいな勘違い野郎には、思い知らせてやりたくなるぜ」

「G専科の方が上だと思ってんだろ? 本当にそうか試してみるか?」

「いやだから、なにも勘違いしてませんって――」

「面白そうですね、試してみましょう」


 さらりと割り込むセラの言葉。

 防御するように両手のひらを前に掲げていたリュートは、顔だけでセラに向き直った。


「おい馬鹿言うなよ。(けん)()は処罰対象だろっ」

(けん)()じゃなくて勝負ですよ。AR専科生対、G専科生。純粋な他学科交流です」

「ふざけてる場合か? 俺たちは今地球人のがぐぅっ⁉」


 セラへの抗議は、突然背中に生じた衝撃と、地面への激突、その後後頭部に加わった一撃で、問答無用に中断された。


「なっ……⁉」

「大丈夫(あま)()君⁉」


 銀貨と明美の、混乱したような声が聞こえる。加えて、


「話は聞かせてもらったぜ」


 上方から、覚えのある声が耳に届く。あいにく頭を押さえつけられているため視認はできないが、テスターの声が正解を教えてくれた。


「グレイガン教官?」

「よければその勝負、俺が取り仕切ってやる」


 見えなくても分かる。突然の乱入者は、絶対に満面の笑みを浮かべていると。


「あの、教官」

「できればその……リュート様から足をどけていただければと」

「ん? おおっ、そうだった」


 恐る恐るといった様子のテスターらの言葉に、乱入者が足――だろう、セラの言葉から察するに――をどける。


「相変わらず鈍い人生送ってんなあ、イカ墨小僧。これくらいの蹴りはあっさり()けてくれんと、まるで俺様がいじめてるみてえで困るぞ」


 奇襲の回避が身につくような人生は嫌だとか、回避できてもいじめはいじめだろうとか、いろいろと思うところはあったが、


「……善処します」


 いろいろと諦め、背中をさすりつつ立ち上がる。もう片方の手で後頭部をはたくと、砂がぱらぱらとこぼれ落ちた。

 目の前の6回生たちは、もうリュートを見てはいなかった。引きつった顔で、こちらの背後を見つめている。


 6回生だけではない。リュートはもちろん、セラも、いつも(ひょう)(ひょう)としたテスターでさえ、顔に警戒の色をにじませている。

 以前グレイガンに会った時のことを思い出しているのか、明美も不安げな顔だ。グレイガンという脅威を知らない銀貨だけが、置いていかれたように、事の成り行きをぽかんと見守っていた。


 事態をあおった責任を感じているのか、セラが恐々としながらも、意を決して口を(ひら)く。


「教官。ご厚意痛み入るのですが、こんな()(まつ)なもめ事に教官を巻き込むのは、私たちとしては大いに気が引けます」


 (わたり)(びと)組全員で大きくうなずく。それはもう何度も。


「おう、任せろ!」


 全然聞いちゃいない。

 グレイガンはガハハと笑うと、景気づけにリュートの頭をバシンとはたいた。


「こんなとこで突っ立ってたら邪魔だからな。まずは移動だ」


◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ