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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第6章 僕らの夏休み
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1.楽しい体験入学~1日目~③ どう、守護騎士っぽい?

 リュートが内心うなり声を上げていると、


「ところで……それの貸与はさすがに無理かな」


 銀貨がこちらの腰元――剣帯に下げられた()(けん)に、物欲しげな視線を注ぐ。


「駄目に決まってるじゃないですかっ!」


 金切り声を上げたのはセラだ。失言だと思ったのか、(かど)が立たないように、慌てて取り繕い始める。


「いえもちろん、地球人と交流を深めるのが目的の体験入学ですからね。お貸ししたいのは山々なんですが、機密事項もありますし……でも制服貸与だって、超絶()(きゅう)の特別待遇なんですよ! たぶん制服を着た地球人は、山本さんと須藤さんが初めてです! 分かりますかっ? 地球人で! 初めて!」


 人さし指を立てたセラにぐいぐいっと迫られ、銀貨はその言葉を吟味したようだ。


「地球人で初めて……」

「です!」

「……そうだね、セラさんの言う通りだ! これ着てる時点ですごいんだから、これ以上は(ぜい)(たく)だっ」


 うんうんとうなずき、思いの外あっけなく引き下がる銀貨。

 と思ったら、


「それにこんなこともあろうかと、ちゃんと持ってきたんだよね」


 鼻歌交じりに、ソファに置かれた円筒形の(かばん)へと手を伸ばす。(かばん)は無駄に大きく、閉まりきらないチャックの隙間から、なにか棒状の物が突き出ていた。

 その突き出た部分をつかみ、ぐいと引き抜く銀貨。現れたのは()(けん)――ではなく、玩具(おもちゃ)の剣。以前学校祭の出し物で使用した物だ。

 ()(けん)の代わり……ということなのだろうが、それにより仮装くささが一気に増したのは、皮肉としか言いようがない。


「準備のいいことで」


 テスターが苦笑し、守衛が差し出したペン付きバインダーを手に取る。

 リュートとセラも各自受け取り、そこに挟まれた書面に目を通し始めた。来客の世話係に対する、いつもの伝達事項だ。地球人への秘匿事項に関する厳命や、案内禁止区域をしるした略地図が載っている。


「ここで()(けん)を、こうして……」


 視界の端に、大仰な構えを取っている銀貨が映り込む。守護騎士(ガーディアン)が好きなら、そんな無駄過ぎる構えを取る者などいないことくらい、知っておいてほしいが。

 銀貨がポーズを決めながら、期待するような声音で聞いてくる。


「どう、守護騎士(ガーディアン)っぽい? 鬼を狩れそうな感じ?」

「決めポーズ中に(おう)(さつ)される間抜けって感じ」


 間抜けを横目に、リュートは書類にサインした。


「そうかなあ。かっこいいと思うんだけど」


 不服げに、玩具(おもちゃ)の剣を振るう銀貨。その腕を守衛がつかんだ。


「申し訳ないですが、武器の類いは一時預かりとさせていただきます」

「え、でもこれ玩具(おもちゃ)……」

「申し訳ありません」


 戸惑う銀貨に、有無を言わさぬ口調の守衛。議論の余地はなかった。


(まあ、即座に没収されなかったのは優しさだよな)


 むしろそんなことを思ってしまうリュートであった。

 守衛が事務的な口調で続ける。


「それとスマートフォンは、当校の訓練生にお預けください」

「厳しいなあ」

「仕方ないよ、そういうルールみたい。私も(まい)か――えと、素直に従お?」


 渋る銀貨を明美がなだめる。危うく口を滑らせかけたが、銀貨は気づいた様子もなく、


「分かってるけど、なんか悲しいっていうか、信用されてないんだなというか……地球人と(わたり)(びと)がもっと仲良くなれば、いつか対応も変わってくのかなあ……」


 と、眉根を寄せてため息をつく。

 2種族の関係を憂う彼の姿に、リュートは少し感心した。テスターら他の者たちも同様らしく、場の空気が柔らかくなる。

 明美がセラにスマートフォンを渡し、制服のポケットをあちこち探っていた銀貨も、「あったあった」と言いながら、内ポケットからスマートフォンを取り出した。

 が、ポケットには他にも収納物があったようで、引きずられて出てきたなにかが、音を立てて床へと落ちた。

 ICレコーダー。


「あ」


 銀貨が声を落とし、守衛がレコーダーを拾い上げる。


「今後の対応について、ぜひとも検討させていただきますね」


 地球人と(わたり)(びと)の融和を願う守護騎士(ガーディアン)オタクが、その兆しをぶち壊した歴史的瞬間だった。


◇ ◇ ◇

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