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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第6章 僕らの夏休み
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1.楽しい体験入学~1日目~② なんて素晴らしい日なんだっ!

◇ ◇ ◇


 セラとテスターに対して肩身が狭いなか、発端となった(ぎん)()にせめて一言を言ってやろうと、我ながら器の小さいことを考えていたのだが。


「す、すごいっ……すごいすごいすごいっ! 守護騎士(ガーディアン)訓練生の制服だ……これを着られる日が来るなんてっ……! なんて素晴らしい日なんだっ! 生きててよかった本当によかった! 産んでくれてありがとう母さんっ!」


 ドン引きするほど感極まった様子の銀貨を目の前にしたら、そんな気も()せてしまった。


「えーっと……おはようございます」


 守衛所のドアノブを握ったまま――ドアを()けた瞬間テンションMAXな銀貨が目に入り、そのまま硬直していたのだ――リュートは挨拶した。

 校門のそばに設置されている守衛所には、ある程度の居住空間が確保されている。窓口横の正面ドアから入ると、簡易応接室も兼ねた、ソファが設置してある部屋に出くわす構造だ。

 応接室には3人いた。女性の守衛と少年少女。


「あ、おはようみんな」


 真っ先に反応したのは、ソファに座っている黒髪の少女――須藤(あけ)()だった。真新しい、AR専科生の制服を身に着けている。校外で貸与されるはずはないから、来校時に受け取り、守衛所(ここ)の更衣室で着替えたのだろう。胸には『Visitor』と書かれたネームプレートが()めてあった。


「君たちが付き添いの生徒?」


 明美の傍らに立っていた守衛が、心なしかほっとした面持ちで聞いてくる。気持ちは分からないでもない。

 重度の陶酔で反応が遅れたのが、最後のひとり。G専科生の制服――明美と同じくネームプレート付きの――に身を包んだ、山本銀貨だ。

 ワンテンポ遅れてこちらの存在に気づくと、


「おはようみんな! これなんだか分かるかい?」


 よほどうれしいのか、誇らしげに立ち姿を見せつけてくる。


「すっごいな。ここまで感動してるやつは初めて見たぜ」


 リュートの背後からひょいと入室し、物珍しそうに銀貨の反応を楽しむテスター。

 確かに高等科に上がりたての訓練生でも、こうまで興奮はしないだろう。制服を着古して感動の(かけ)()も生まれなくなったリュートたちからすれば、斬新すぎる反応だ。


「つかなんでわざわざ、G専科を選ぶかね。AR専科にしときゃいいのに」


 ぼそりとつぶやくと、


「AR専科の方が楽だと?」


 背後から、ややとげとげしい言葉が返ってくる。


「あ、いや。そういうわけじゃ……」

「別にいいですけど」


 口ごもるリュートの横をするりと通り抜け、セラが入室する。

 リュートも多少決まり悪くそれに続き、全員が室内に収まる形となった。あくまで守衛所の応接室なので、さすがに6人ともなると、手狭な感が否めない。

 そろった人数に()()されたのか、明美が頭に手を当て半笑いする。


「ごめんね。なんか私まで」

「別にいいさ。ひとりもふたりも変わらない」


 リュートは肩をすくめた。

 気を遣ったわけでもなんでもなく、明美ひとりなら問題はないのだ。すでに何度も訓練校を訪れ、何事もなく済んでいるのだから。


(そう、須藤()問題ないんだよ……)


 例えば今回の体験入学に配慮して、アスラは世界守衛機関(WGO)本部棟に引きこもっているらしい。しかし来訪者が明美だけなら、その必要だってなかったのだ。

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