1.楽しい体験入学~1日目~② なんて素晴らしい日なんだっ!
◇ ◇ ◇
セラとテスターに対して肩身が狭いなか、発端となった銀貨にせめて一言を言ってやろうと、我ながら器の小さいことを考えていたのだが。
「す、すごいっ……すごいすごいすごいっ! 守護騎士訓練生の制服だ……これを着られる日が来るなんてっ……! なんて素晴らしい日なんだっ! 生きててよかった本当によかった! 産んでくれてありがとう母さんっ!」
ドン引きするほど感極まった様子の銀貨を目の前にしたら、そんな気も失せてしまった。
「えーっと……おはようございます」
守衛所のドアノブを握ったまま――ドアを開けた瞬間テンションMAXな銀貨が目に入り、そのまま硬直していたのだ――リュートは挨拶した。
校門のそばに設置されている守衛所には、ある程度の居住空間が確保されている。窓口横の正面ドアから入ると、簡易応接室も兼ねた、ソファが設置してある部屋に出くわす構造だ。
応接室には3人いた。女性の守衛と少年少女。
「あ、おはようみんな」
真っ先に反応したのは、ソファに座っている黒髪の少女――須藤明美だった。真新しい、AR専科生の制服を身に着けている。校外で貸与されるはずはないから、来校時に受け取り、守衛所の更衣室で着替えたのだろう。胸には『Visitor』と書かれたネームプレートが留めてあった。
「君たちが付き添いの生徒?」
明美の傍らに立っていた守衛が、心なしかほっとした面持ちで聞いてくる。気持ちは分からないでもない。
重度の陶酔で反応が遅れたのが、最後のひとり。G専科生の制服――明美と同じくネームプレート付きの――に身を包んだ、山本銀貨だ。
ワンテンポ遅れてこちらの存在に気づくと、
「おはようみんな! これなんだか分かるかい?」
よほどうれしいのか、誇らしげに立ち姿を見せつけてくる。
「すっごいな。ここまで感動してるやつは初めて見たぜ」
リュートの背後からひょいと入室し、物珍しそうに銀貨の反応を楽しむテスター。
確かに高等科に上がりたての訓練生でも、こうまで興奮はしないだろう。制服を着古して感動の欠片も生まれなくなったリュートたちからすれば、斬新すぎる反応だ。
「つかなんでわざわざ、G専科を選ぶかね。AR専科にしときゃいいのに」
ぼそりとつぶやくと、
「AR専科の方が楽だと?」
背後から、ややとげとげしい言葉が返ってくる。
「あ、いや。そういうわけじゃ……」
「別にいいですけど」
口ごもるリュートの横をするりと通り抜け、セラが入室する。
リュートも多少決まり悪くそれに続き、全員が室内に収まる形となった。あくまで守衛所の応接室なので、さすがに6人ともなると、手狭な感が否めない。
そろった人数に気圧されたのか、明美が頭に手を当て半笑いする。
「ごめんね。なんか私まで」
「別にいいさ。ひとりもふたりも変わらない」
リュートは肩をすくめた。
気を遣ったわけでもなんでもなく、明美ひとりなら問題はないのだ。すでに何度も訓練校を訪れ、何事もなく済んでいるのだから。
(そう、須藤は問題ないんだよ……)
例えば今回の体験入学に配慮して、アスラは世界守衛機関本部棟に引きこもっているらしい。しかし来訪者が明美だけなら、その必要だってなかったのだ。