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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
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4.ホンモノの定義⑬ 慰められるよ。

◇ ◇ ◇


(やべーな……)


 体育館に急ぎながら、リュートは腕時計を確認した。そろそろ自分の出番だ。


(須藤を見つけるのに、思いの外時間がかかっちまった。間に合うといいけど)


 間に合わなかったら後が怖い。割と本気で怖い。


「すみませんっ」


 行き交う来客の間を縫うように進み、ようやく体育館へとたどり着く。


「佐伯!」


 出入り口の番をしている佐伯俊介に呼びかけると、彼は慌てた顔でこちらに駆けてきた。


「お前なにしてたんだよ、江山カンカンだぞ! ていうかメークもしてねーじゃんか!」

「いろいろあったんだよ。江山は?」

「もしものときのために、お前の代役としてスタンバってる。脚本担当なだけあって、台詞(せりふ)が頭に入ってるからな」

「なんだ、じゃ俺いらねーじゃんかよ」

「そうじゃないだろ!」


 安心して反転しようとするリュートの肩を、俊介がガシッとつかむ。

 俊介はスマートフォンをいじりながら、


「待ってろ、今江山にメールするから。来たら教えろって言われてるんだ――そうそう、江山のやつ『番号教えてくれないからこうなるのよ!』ってがなってたぜ」

「仕方ないだろ。基本的に、地球人に番号は教えられないんだ」


 俊介の手を肩で押しのけ、リュートは言い訳がましく説明した。

 正確には明美は当然として、銀貨にも番号は教えてあった。

 彼に関しては教えてアピールに根負けしたのと、いざという時の――まさに今日みたいな――明美関連の連絡手段のためというのが理由だが、原則的に地球人とのスマートフォンを介したやり取りは禁止されている。


「で、なんで遅れたんだ? デートに夢中で忘れてたか?」

「お前こんな時でも、そのスタンスは崩さないんだな」


 好奇心に目を光らせる俊介に、リュートはため息を返した。


「照れちゃってまあ――と、返事来た」


 俊介がスマートフォンに目を落とす。


「予定通り()れって。ただし小道具の剣は()(けん)で代用、登場時は一般用出入り口から入ってこいとのこと。あとは……うはっ」


 片眉を上げて失笑する俊介。

 スマートフォンをこちらに向けてくるので、のぞき込んで見ると……


「控え目に見てブチ切れてんな」

「でもまあ、怒りの絵柄をさまざまなバリエーションで送ってくるくらいには、心に余裕があるみたいだぜ」

「慰められるよ」


 おざなりに返して、リュートは暗幕の張られた出入り口に近寄った。

 耳を澄ますと、中の様子が聞こえてくる。ちょうどリュートの出番となる、ひとつ前の場面のようだ。

 息を潜めて場転を待つ。

 やがて『姫』の声が聞こえ始め、『ならず者』も登場する。そこへ――


「その汚い手を離せ!」


 暗幕を払いのけ、さっそうと登場する『騎士』。すかさずピンスポットライトが当てられる。

 そしてざわつく観客たち。


(あー……やっぱキャストなんてやめときゃよかった)


 猛烈な後悔に襲われるも、もう後には引けない。

 リュートは壁際を駆けていき、舞台の上へと飛び乗った。

 着地ついでに『ならず者』をひとり倒すと、『姫』をかばうように前へと出る。

 これで通常の流れに戻った。あとは練習通りにやるだけだ。


(……で、最後の最後でこれかよ!)


 リュートはなにか――フォーチュンクッキーでもおみくじでもなんでもいいが、運命的ななにか――に向かって毒を吐いた。

 舞台上に現れた()(しん)を諦めの境地でにらみ、腰のブザーへと手を――


(あお)()()殿、邪悪な魔物ですっ! 成敗を!」

「なっ……⁉」


 突然割り込んできた悦子に手を押さえつけられ、リュートは一瞬動きを()めた。


「馬鹿離せ!」


 しかし悦子は離さない。兵士の衣装に身を包んだ彼女が、狂喜に満ちた目で訴えてくる。

 ここで鬼の排除を劇に絡めて実演したら、絶対ウケる……と。


「さあ(あお)()()殿! ささっと退治してください!」


 けしかけるようにリュートを()(しん)の方へと押し出し、『姫』と共に後ずさりする悦子。ただし、「変なことしたらまた邪魔する」と目が語っていた。

 リュートは速攻で()(けん)を具現化させながら、


「……分かったよ! 劇的な排除を見せりゃいいんだろっ⁉」


 完全にヤケになって、()(しん)へと特攻した。


◇ ◇ ◇

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