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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
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4.ホンモノの定義⑦ 顔は熱くてでも寒くて

◇ ◇ ◇


(……そうだ、小道具)


 1階の保健室に向けた足を、明美は強引に方向転換し、階段へと向け直した。

 昨日(きのう)美術部の友人に頼んで、色の剝げてしまった騎士の盾を塗り直してもらったのだ。美術準備室で乾かしてあるから、回収しに行かなければならない。


(保健室行ったら、搬入作業できなくなるかもしれないし……先に回収して()()ちゃんに渡してから、保健室に行こう)


 いつも頼りっぱなしの裏方仲間にまた頼ることになるが、仕方ない。

 今度おわびのお菓子でも渡そうと決めて、明美は階段をゆっくり上っていった。


(あれ……結構、つらいかも……)


 先ほどまでは耐えられていたのに、ひとりになったら急に身体(からだ)が重くなってきた。寒気も一気にひどくなる。

 後ろから来た生徒らにどんどん追い抜かれていきながら、明美はなんとか4階までたどり着いた。


 奥まった場所にある美術室は、その場所故か他の催し物の派手さに()されてか、展示の鑑賞者は少ないようだった。入り口の長机で暇そうに(ほお)(づえ)をついている男子生徒の前を通り過ぎ、隣にある美術準備室へと入る。

 友人からは、勝手に入っていいと言われてはいた。それでもやはり気後れし、なんだか泥棒に入ったような錯覚さえ覚えた。

 しまい込まれた画材等のせいだろう、室内は油の匂いが鼻についた。壁際に並べられた(せっ)(こう)像らが強烈な存在感でもって明美の目を引いてくる。


(せっ)(こう)像っていうと、なんでみんなこういうデザインなんだろう。別の人じゃ駄目なのかな、なんか怖い。ていうかフィクションだと、大抵人殺すのに使われるよね)


 などと大変失礼なことを考えながら、明美は目をそらした。正直もう身体(からだ)が重くて顔は熱くてでも寒くてそして頭は(こん)(とん)の極値だった。


(……あった)


 探し物はこれ以上なく目立つ所、部屋中央の長机の上に置かれていた。

 ただ明美の注意が先に(せっ)(こう)像に行ってしまったのと、長机にある物らが乱雑に置かれ過ぎていて、気づくのにワンテンポ遅れてしまっていた。


(よかった、ちゃんときれいになってる……)


 念のため指で触って乾いていることを確認してから、明美は盾を持ち上げた。

 が――


(――あれ?)


 突然自分の意識に暗幕が下りた。どうにもならない。ただ倒れていく。

 そんな中とっさに盾を机上に置いて衝撃を回避させたのは、自分史上最高のファインプレーなのではないかと、明美は最後の一瞬にそう思った。


◇ ◇ ◇

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