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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
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4.ホンモノの定義⑥ 壁ドン

「ではおふたりの魂の(しん)(えい)を教えてください」

「えっと、俺は光るサボテン」

「私は空舞う(みず)(がめ)

「分かりました。光るサボテンと空舞う(みず)(がめ)の相性は……と」


 下を向き、なにかを操作する占い師。手つきからすると、タブレット端末かなにかを用いているらしい。


(とんだ占い師様だな……)

「あ、出ました」

「どうですか?」

「最悪ですね」

「さいあっ……」


 絶句するセラ。

 まさか軽いノリで聞いて、ここまで容赦ない回答が返ってくるとは思っていなかったのだろう。

 しばし沈黙してから、セラは確かめるように口を(ひら)いた。


「本当ですか? これでも守護騎士(ガーディアン)とアシスタントで、仕事関係良好だと思うんですけど」

「そうはいっても、400通りある組み合わせの中で、断トツ最下位の相性です」

「そ、そぉですか……」

「リュー君リュー君、あたしも早く占い見たーい!」


 セラが力なく引っ込むのと入れ替わりで、アスラが背後で叫びだす。


「あ、じゃあこれで。ありがとうございました」


 また首を絞められる前にと、リュートは急いで席を立った。

 納得いかない様子のセラを促し教室の外へ出たところで、右手に隠し持っていた紙片を(ひら)く。


『あなたの魂の(しん)(えい)は「(しゃく)(ねつ)のしゃもじ」です。総運――』

(またすごい(しん)(えい)? だな)


 アスラに見えるよう広げた際、ちらりと見えた言葉に苦笑する。が、すぐに引っかかりを覚える。


(この破壊力のある()(づら)、一度見たような気が……)

「きゃああぁぁぁっ⁉」


 ほとんど悲鳴に近い歓喜の叫びに、リュートは思わず目を閉じた。


「見て見てリュー君っ! あたしたち相性最高だって!」


 ぴょんぴょん跳ねながら、バシバシ肩をたたいてきたアスラが――当然のこと激痛い――、紙片の一点を指さす。そこに書かれていたのは、


『相性最高な魂の(しん)(えい):光るサボテン 最高のシチュエーション:壁ドン』

(そうか、相性欄に……)


 アスラの相性欄にこう書かれているということは、先ほど流し見したリュートの相性欄には、『(しゃく)(ねつ)のしゃもじ』が記載されていたはずだ。


「あたしたちベストカップルってことだよね! すっごーいっ!」

「たかが占いにはしゃぎ過ぎよ」


 小声で水を差すセラにも、アスラは全く動じない。


「でも400という組み合わせの中で最高なんだよ? これはもう運命だよ運命っ! ね、リュー君っ♪」


 リュートは曖昧に笑って首をかしげながら、もと来た道を引き返した。できるだけ(ひと)()のないところに避難して、アスラの興奮を静めたかったのだ。ここではろくに会話もできない。

 しかし、


「あーどうしよ! ベストカップルだなんて――そうだ!」


 移動し終わるより、アスラの興奮がおかしな方向に振り切れる方が早かった。


「キスしよーよリュー君♪」

「キッ……⁉」

「ちょっ……ちょっと!」


 不意打ちの発言に、リュートとセラの足が止まる。

 その隙を突くように、アスラはこちらに身を乗り出してきた。


「いいじゃん、あたしたちベストカップルだよ? 前はやり損ねたけど、やっぱキスくらいしないと!」

「いや、それはちょっと……!」


 廊下を行き交う生徒たちがアスラにぶつからないよう、リュートは壁際へと身を引いた。それは取りも直さず、逃げ道を狭めるということでもあり……


「あたしのこと嫌い?」

「そういうわけじゃ……」


 アスラから少しでも距離を取るため横にずれようとしたその時、顔の両サイドを風が走った。耳元で生じるやけに破壊的な音に身がすくむ。

 壁に両手をついたアスラが、叱るように言ってくる。


「逃げちゃだーめ!……あ、これがもしかして『壁ドン』ってやつなのかなっ?」

(よく分かんねーけど、絶対違うと思う……)


 どちらかといえば『壁ドゴォン!』だ。

 音に驚いてこちらを向く生徒に、適当な愛想笑いを返してごまかしていると、


「図らずも最高のシチュエーションになっちゃうなんて、やっぱ運命だね♪」


 アスラが顔を近づけてくる。


「待っ……」


 唇が()れる直前、なぜかアスラの顔が遠のいた。

 見るとセラが、アスラの首根っこをつかんでいる。なにかに耐えるよう目を閉じ、こめかみを引きつらせて。


「やーっ、セラちゃんのいじわるー!」

「……ちょっと言い聞かせてくる」


 一音一音絞り出すように吐き出し、セラはアスラを引きずって歩きだした。地球人から見れば違和感丸出しの動きだが、そんなこと気にしている余裕もないらしい。


「セラ、ちょっと待――」


 呼び止めようとして、止まる。次元のゆがみを認知して。


(ちっ……)


 左胸のポケットからスマートフォンを出すと同時、着信反応があった。テスターだ。

 応答ボタンを押して開口一番、リュートは手短に尋ねた。


「どっちがやる?」

「すぐそばだから俺でいい。その代わりに須藤を頼む。山本と一緒に保健室に行ってもらうから」

「了解」


 スマートフォンをポケットにしまいながら、リュートはセラとアスラが消えていった方を見た。たぶん屋上にでも向かったのだろう。


(まあ、大丈夫……か?)


 さすがにお互いを傷つける事態には発展しないだろう。

 希望的観測に近いが、明美を放置するわけにもいかない。

 リュートは階段を駆け降り――生じたゆがみに急制動をかけた。


(――3体目⁉ 有り得んのか⁉)


 身を翻して4階に戻ると、廊下奥の突き当たりに、確かに()(しん)の姿がある。

 ようやく二重(げん)(しゅつ)にも慣れてきたというのに、さらなる多重(げん)(しゅつ)の発現。


(なんだってんだよこんな時にっ……!)


 臨時の応援守護騎士(ガーディアン)はまだ到着していない。テスターもこのにぎわいの中、2体同時の相手で手一杯だろう。

 やるべきことが同時に――それも無駄な俊敏さで頭をぐるぐる巡り、その分思考が愚鈍化する。


()(しん)がいるのはここと中庭。保健室からは距離があるし、一応――本当一応だけど山本も付いている……)


 排除、保健室、セラと優先順位をつけ、リュートは()(けん)を引き抜いた。


(くそ、セシルのやつ! やっぱ応援の守護騎士(ガーディアン)は、早く待機させといた方がよかったじゃねーか!)


◇ ◇ ◇

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