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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
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4.ホンモノの定義⑤ 占いの館

◇ ◇ ◇


 (たすき)()祭を見て回るといっても、さすがにほいほい遊ぶわけにはいかない。文字通り見て回るだけだ。


(応援がもう少し早く待機してくれれば、その余地もあるんだけどな)


 事前にセシルにかけ合ってみたものの、応援の守護騎士(ガーディアン)は一般開放される9時からしか待機不可だと、すげなく却下されたのだ。


「お化け屋敷どうですかー? 暑さも一気に吹き飛びますよ!」

「本格メイド喫茶やってまーす。ぜひぜひお立ち寄りくださーい!」


 客引きの生徒をかわしながら進んでいたら、あっけなく4階までたどり着いた。

 4階は主に3年生のゾーンだが、ここに来てぐんと熱量が下がる。過去2年で十分に(たすき)()祭を堪能し、すでに受験へと切り替え済みの学年なのだから、まあ納得というところではある。


「『占いの(やかた)』どうっすかー? 監修した生徒は占い師の家系という、マジモンでーす。健康運から異性との相性まで一挙に分かるお得占いっすよー」


 テンションを意図的にセーブしたような声音で、3年生が呼び込みをやっている。

 ただそれだけのことだったのだが、


「リュー君、相性占いだって! あたしやりたい!」


 思わぬところでアスラが食いついた。

 彼女に直接返すわけにもいかず、リュートはセラに話しかけるふりをしてささやいた。


「やめとけって。どうせパチモンだ」


 そのまま『占いの(やかた)』を通り過ぎようとすると、


「やりたいやりたいやりたーい!」

「っぐ……」


 背後からぶら下がってきたアスラに、首を締めつけられる。


「やりたいやりたいやりたいやりたいやりたあぁぁぁいっ!」

「わ……分かった! 分かったから!」


 リュートは全力でアスラをはねのけた。

 そしてはっとする。


「わ……分かったら、次からはもっとちゃんと声に出せよセラ。つぶやくだけじゃ聞き逃しちまうからな」

「不本意ですリュート様」


 セラが求めたよう慌ててごまかすと、冷めた声が返ってきた。


「いいじゃねーかたまには。俺なんて日常的に不本意のオンパレードだぞ」


 適当に流して、リュートは309の教室――『占いの(やかた)』へと入っていく。


「ようこそ『占いの(やかた)』へ!」

「奥の2番テーブルへとどうぞ!」


 迎えてくれたのは、いかにも占い師然とした薄紫のベールに身を包んだ、女子生徒ふたり。彼女たちは外の客引きと違い、テンションも高い(衣装にはしゃいでいるだけなのかもしれないが)。


「もしかして君たち相性占いが目当て?」

「やだ、(わたり)(びと)もかわいいとこあるじゃんっ」

「ほんとほんと、馬鹿真面目なだけな種族かと思ってたっ」


 失礼度もMAXな生徒らに導かれ、リュートたちは奥へと進んでいった。

 教室内は、紫色のサテンの布が張り巡らせてあり、所々に取りつけてある、アンティーク調の壁飾りがアクセントとなっていた。一部の壁飾りに値札シールが付いたままなのは……気づかないふりをした方がいいのだろう。


 占いは3区画あった。『区画』という通り、それぞれが(つい)(たて)で仕切られ、きちんとプライバシーに配慮している――っぽい感じではあった。

 リュートとセラはそのうちの真ん中、2番テーブルの席へと着く。アスラはリュートの背後に立った。


 目の前には白い布が敷かれたテーブル――恐らくは生徒用机2台を向かい合わせにくっつけたもの――があり、その上に立方体の箱が置かれていた。上面に円形の穴が()けられている。

 そしてテーブルを挟んだ向かいには、占い師の女子生徒が座っている。こちらは黒いベールをまとっていた。


「それでは占いを始めます――待って!」


 占い師の言葉に、セラが箱に伸ばしていた手をびくりと()める。


「早まらないでください。まずはオーラの読み取りからです」


 占い師は厳かに告げると、手でなにやら印のようなものを結んだ。


「オーラがあなた方それぞれに向けた啓示を引き寄せます。箱の上に手をかざしてください」


 言われるがままに、箱の上へと手をかざす。この時アスラも、リュートとセラの間から手を差し出した。


「それでは、啓示を取り出してください」


 まずはセラが、次いでリュートが、箱から折りたたまれた紙片を取り出した。そして、


「あっ」


 と言うリュートの声と目線につられ、占い師が教室の壁に目を向けた。

 その隙にアスラが、さっと箱から紙片を取り出す。彼女から後ろ手に紙片を受け取りながら、リュートは顔を戻した。


「すみません、なんでもないです」

「……?」


 占い師はいぶかしげな顔をしながらも、自身の役割に(ちゅう)(じつ)に動いた。

 つまりは受け流して、次の段取りへと進んだ。


「紙を(ひら)いて。それがあなた方への啓示です」

(啓示なんてもん、本当にあるなら(げん)(しゅつ)予測でも立ててほしいね)


 我ながらひねたことを思いつつ、紙片を(ひら)く。まず目に入ったのは、


『あなたの魂の(しん)(えい)は「光るサボテン」です。総運:踏んだり蹴ったり七転八倒』

(……()()ってんのか? この言い回し)


 光るサボテンというのもアレだったがまさかの運気丸かぶりに、リュートは占いというものに対し、初めて底知れぬ不気味さを感じた。

 残りは健康運や金運、恋愛運やらがぐだぐだと続いている感じで、リュートはざっと流し読んだ。たとえ信じていなくとも、書いてあれば見てしまうのが人間の(さが)というものだ。


「最高の相性となるタイプは書いてある通りですが、ここでは特別に、この場でおふたりの相性を見てあげましょう」

「あ、いやそれは別にどうでも……」

「いいじゃないですかリュート様」


 断ろうとしたリュートを、セラが横から遮った。


「せっかくですし教えてもらいましょうよ。仕事のパートナーとして、どんな感じか」

「まあ、お前がそう言うなら……」

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