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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
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4.ホンモノの定義④ そろそろ潮時だ。

◇ ◇ ◇


「いやー、学祭って楽しいな。ただ串に刺さってるだけの食べ物が、なんでこんなにうまいんだろ」


 フランクフルトを胃に収め終えたテスターが、満足げに串を振る。

 校舎を日陰とする中庭の一角で、明美たちは模擬店での購入物を食べていた。

 腰を下ろしているのが花壇の(へり)なので、あまり深くは座れないのが玉にきずだが、実をいうと明美は、歩かずに済んでほっとしていた。

 とはいえ……


「ねえアルベルト君」


 両手で持ったペットボトルを(ふと)(もも)の上で傾けながら、明美は遠慮がちにテスターを見た。


「ん?」

「その……食べてばっかりだけど、校内の催し物は見に行かないの?」


 テスターは先ほどから、少量の飲食物を買ってきてはここで食べるを繰り返している。もうずっとだ。

 明美自身はお茶をちびちび飲んで時間を潰しているが、銀貨は少し物足りなそうだ((わたり)(びと)に関する彼の質問を、テスターがのらりくらりとかわしているからなのかもしれないが)。

 テスターが制服の裾をつまみ、白状するように笑う。


「それがさ、守護騎士(ガーディアン)の制服着てるとなかなかに暑くって。校内(なか)にエアコンついてるわけでもないし。なんだかんだでここが一番暑さをしのげるから、ついな」

「あー。暑そうだもんね、確かに」

「でも僕、夏服と冬服あるって聞いたことあるよ。違いよく分からないけど」

「そうそ。これでも一応夏仕様ってんだから笑えるよ」


 笑いで収めて、テスターは持っていた串を手元のごみ袋に入れた。


「さてと。次はなに食おっかな」


 まだ食べるのか……

 思わず内心で突っ込むと、テスターを挟んで向こう側の、銀貨と目が合った。恐らくは明美と同じことを考えているであろう彼と、苦笑いを交わす。

 と、銀貨の顔がかき消える。突然立ち上がったテスターの身体(からだ)に隠れて。


(げん)(しゅつ)だ――それも二重幻出(ダブル)!」


 言いながら、腰に左手をやるテスター。と同時に、ブザー音が辺り一帯に鳴り響く。


(げん)(しゅつ)です! 中庭から退避してください!」


 テスターは声を張り上げると、いつの間にか取り出していたスマートフォンを耳に当てた。誰かと通話しているらしい。

 と思ったらすぐに終了した。突然変わったテンポに、明美は完全に置いていかれていた。

 銀貨は違ったようで、スマートフォンを胸ポケットにしまうテスターに、むしろ自分のペースに引き寄せるようにしてのんびりと問う。


「今のは(りゅう)()君?」

「ああ」


 テスターは律義に答え、再度退避勧告を周囲に行った。

 自分はどこに逃げればいいのかと思っていたら、テスターがこちらへと身を寄せてきた。

 慣れない接近にどきりとするうちにも、彼が耳元でささやく。


「山本と一緒に保健室行ってくれ」

「保健室?」

「楽しみだったのは分かるし責任感は買うけど、そろそろ潮時だ。周囲に感染(うつ)せば、美談でもなんでもないぜ」


 今度は違った意味でどきりとし、明美は一歩下がってテスターを見た。

 彼は別段こちらを非難するふうもなく、


「あ、悪いけど、これだけ捨てといてもらえるか?」


 と、ごみ袋を明美に渡して、中庭の中央部に走っていった。たぶんそこに鬼がいるのだろう。


「テスター君、なんて言ったんだい?」


 興味津々に銀貨が聞いてくる。

 これが嫉妬とかであればまだ分かりやすいのだが、銀貨の場合は守護騎士(ガーディアン)に関することから全ての興味が始まっているので、明美としては少々複雑な気持ちではあった。


「保健室にでも避難しろって」

「えー。せっかく2体同時の排除が見れると思ったのに……」


 銀貨が心底無念そうに言うものだから、明美はなんだか申し訳なく思い、


「邪魔にならない所からなら、見ててもいいんじゃないかな」


 と指を立てて提案した。


「でもそれじゃあ須藤さんが……」

「私は大丈夫。先保健室行ってるから、後で来てくれるとうれしいな」


 火照った頰に気づかれないよう、精いっぱいの笑みを浮かべる。


「……うん! 絶対行くから!――あ、これついでに捨ててくるよ」


 銀貨はうれしそうに返すと、明美の手にあるごみ袋を引っつかんで、急ぎ足でテスターの消えた方へ去っていった。

 自分で言い出したこととはいえ、即決されるとどこかむなしいものである。


(私ってわがまま……)


 しかしこれで気を張る必要もなくなった。

 明美は揺れる足取りで、校内へと向かった。


◇ ◇ ◇

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