4.ホンモノの定義③ お見逃しなく☆
◇ ◇ ◇
(全く興味ない……つったら嘘になるよな)
色めき立つ校舎内を歩きながら、リュートは正直に認めた。
訓練校に学校祭なるものは存在しない。
だから生徒たちが寸暇を惜しんで準備に追われ、当日こうして一致団結した盛り上がりを見せているのは、リュートにとって新鮮な情景だった。
(欲を言えば、面倒事なしで参加したかったけど)
リュートはハラハラと、隣を行くアスラの動きを目で追った。
襷野祭の一般開放は9時からなので、今はまだ学内の者しか姿が見えない。
しかしそれでも廊下では、十分なほどの人が行き来していた。アスラがぶつかってしまうのではないかと気が気でない。
おまけに、
「ちょっと、くっつき過ぎなんじゃないですか?」
セラが横からささやいてくる。やたらとげとげしい。
「だってくっついてないと、他の人とぶつかっちゃうんだもん」
リュートに密着しているアスラが、当然とばかりに唇を突き出す。
「だからって、年頃の男女がそんなにベタベタするなんて……」
「年頃の男女って……お前、物言いが古臭いぞ」
「じじむさいリュート様に言われたくありませんよ」
「はあっ? なんだよお前、最近やけに攻撃的じゃねーか?」
「気のせいですよ」
つんとそっぽを向くセラ。
(だあもう、めんどくせえなっ……)
失敗だった。セラはテスターに任せるべきだった。
見本のような後悔に辟易し、リュートは腰へと手を伸ばした。アスラに引っ張られたことでズレた上着を整えるためだったのだが、そこで違和感に気づく。
「……ん?」
背中に、ガサッとした感触。
手を伸ばして引っぺがすと、それは養生テープの付いたB5の紙だった。『守護騎士です。101の劇『大義の音色』に出演します。お見逃しなく☆』と純色バリバリの色文字で印字されている。
「い、いつの間に……」
引きつった顔で紙を見下ろすリュートに、セラがあっさりとした口調で、
「ほら、あの時ですよ。江山さんがリュート様の背中をたたいた時。気づかれないよう一瞬で。見事な手際ですよね」
「なんで教えてくれねーんだよ!」
「すみません、別に気にしないかと思って」
嘘だ。
リュートは目ざとく気づいた。
セラは涼やかな顔で、あたかも想像の範囲外だったというふうを装っているが……
(余計なこと言って、自分にとばっちりが来るのが嫌だっただけだ。絶対そうだっ……)
目いっぱい非難の目を向けてから、紙を丸めて懐にしまい込む。
「今後お前が変な紙貼られても、俺は教えてやんねーからな」
「や、やですよリュート様ってば。そんなちっちゃいこと言わないでください」
「知るか裏切り者」
弁明するセラを無視して、リュートはすたすたと歩を進めた。
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