表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第1章 神苑の守護騎士
25/389

3.雲下の後悔① ざわっ。

◇ ◇ ◇


(みず)(たに)()()です。(みな)さんとの交流の機会をいただけたこと、大変うれしく思っております。どうぞよろしくお願いいたしますっ!」


 5限目のホームルーム。

 きらきらとした視覚効果が見えるほどの営業スマイルで、教壇に立ったセラが深々と辞儀をする。


 視聴覚室では気にならなかったというか、勢いと流れで気にする機会もなかったのだが、アシスタントである彼女は、深緑色の上着に身を包んでいた。自分で選べるズボンの丈については、訓練校の制服同様、短パンに黒タイツという装いを選択したようだ。

 守護騎士(ガーディアン)ではないため()(けん)は携えていないが、いざというときのストックとして、リュートのカートリッジをベルトに引っかけている。ベルトには他にもブザー等の装備があり、また肩口にはアシスタント常備の簡易無線機もあるため、物々しさでいえばリュートと大差はない。


 しかしそんな物騒な格好でも、たとえわざとらしくとも、セラの笑顔は教室内に明るさと華やかさをもたらしていた。少なくともリュートよりは早く、クラスメートと打ち解けるだろう。

 愛想のいいセラに、隣に立つ飯島もほっとした様子で、


「みんなも仲良くしてやってくれよ。水谷は天城のアシスタントだ……で、よかったよな?」

「はい、リュート様の専属アシスタントです!」


 笑顔を絶やさぬセラの返事に――教室中がざわめいた。

 リュートが挨拶した時も似たようなものだったが、明らかに違う点がふたつある。


 ひとつはリュートが生徒側に回っていること。

 もうひとつは、


「……リュート()だって」

守護騎士(ガーディアン)とアシスタントって、そういう上下関係だっけ?」

「違うでしょ。いつか見たアシスタントは普通に呼んでたもん」

「付き合ってるとか?」

「……呼ばせてたりして?」


 教室内の空気が冷めていくのに反比例して、リュートの顔は急速に火照っていった。無遠慮な視線からそれを隠すため、なんでもないふうを装って顔を伏せる。

 気づいているのかいないのか、セラは(すべ)らかな口調で言葉を紡いでいく。


「私の役目はリュート様のサポートですが、(みな)さんとも積極的に交流をもちたいと思っていますので、どうか気軽に接してくださいね。もちろん学校の方もリュート様とふたり、全力で(まも)っていきますのでご安心ください」

「っ……」


 セラがリュート様と言うたびに、小声の臆測が飛び交う。ざわっ。


(セラのやつ……速攻で約束破りやがって……っ!)


 リュートは、爪で威嚇する獣のように指を引きつらせた。

 そのまま机の表面に爪を立て、割れんばかりに押しつける。耐えるように目をつぶり、動じたら負けだと自分に言い聞かせる。


(我慢だ、我慢だ……)

「水谷の席は、廊下側の4番目だな」

「先生、いきなり反抗するようで恐縮なのですが、仕事の都合上リュート様のすぐそばの方が――」


 ――ざわわっ。


「水谷っ! 至急内密に報告したいことが盛りだくさんなんだが、ちょっと来てくれすぐ来てくれっ!」


 バンッと机をたたいた反動で立ち上がり、リュートは声を張り上げた。椅子の脚にぶつかった()(けん)が音を立てる。

 セラは教壇から、純度120パーセントの笑顔を返してきた。


「了解ですリュート様! という訳で先生。申し訳ございませんが、少しの間、失礼させていただきますっ」


◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ