4.ホンモノの定義② ぶっちゃけ最大の宣伝要素だし。
「なんだよ、なにか用でもあんのか?」
「なきゃわざわざ話しかけるわけねーでしょ」
凜は相変わらず露骨に嫌そうな顔で、こちらにプラカードを差し出してきた。
「? これは?」
「あんたの分。江山がしっかり宣伝してこいって」
半ば押しつけられるようにしてプラカードを受け取り、リュートは凜を見返した。
「俺主要キャストじゃないけど。衣装も髪もまんまいつも通りだし、劇の雰囲気なんて少しも伝わんないだろ」
「江山いわく『守護騎士がいるなんて、ぶっちゃけ最大の宣伝要素だし』だって」
「守護騎士を宣伝に使うなよ」
「知らねーわよ。あたしは伝えに来ただけなんだから。あと『看板は目立つように、でも周りの邪魔にならないようにうまいこと掲げて歩け』だって」
「んなこと言われても――」
「じゃ、私はちゃんと渡したから。サボんじゃねーわよ」
抗弁を遮って一方的に言い放ち、凜は逃げるように身を翻した。よほど渡人と空間を共有したくないらしい。リュートのそばに立つセラとテスターには、一瞬目を向けることすらしなかった。
「宣伝ねえ……」
リュートは頭をかいて、プラカードの表面に目を落とした。
『101 襷野祭公演:大義の音色(9時開場、9時半開演。体育館にて)――ぶつかり合う正義の果てに、僕はなにを選ぶのだろう――※守護騎士の演技が見られます!』
(俺は珍獣か……?)
ただし書きになんとも言えない思いを抱えていると、明美と銀貨が近寄ってきた。
「お疲れさまだねー、天城君」
「人ごとだと思って……」
苦笑いを浮かべる明美に恨めしげなまなざしを送り、はたと気づく。
「須藤、大丈夫か? 顔色悪いぞ」
「ん。ちょっと風邪気味で」
「無理するなよ。なんなら今から保健室にでも――」
「大丈夫だよー。もう、天城君も山本君も心配性なんだから」
あははと笑う明美の隣で、銀貨が気遣わしげな顔を見せている。どうやら同じようなやり取りを、すでに銀貨とした後らしい。
「でも本当、つらいと思ったら保健室に行ってくれよ。俺たちのためにも」
最後の一言に含みをもたせて、テスター。
女神のことしか考えていないと捉えられかねない彼の言葉に、しかし明美は気分を害したふうもなく、
「うん、分かってる」
とうなずいた。
「ところでさ、天城君たちは時間までどう過ごすの? 今山本君と話してたんだけどね」
「よければみんなで、襷野祭を回らないかい?」
誘い文句を分担して聞いてくるふたり。リュートらは顔を見合わせた。
元々明美のそばを離れるつもりはなかったが、先ほど話題に上った通り、全員一緒というのはやはり一抹の不安が残る。
「もちろん――って言いたいのはやまやまなんだけど、今日は学校祭っていう特殊な日だし、守護騎士はできれば別行動したいんだ。セラはリュートに同行したがるだろうし――え? 勝手に決めるな? でも図星だろ――てことで俺余りそうなんで、君らさえ嫌じゃなければ、俺が同行してもいいかな?」
「それはまあ」
「もちろん大丈夫だけど」
バシバシとはたいてくるセラを涼しげに受け流すテスターを見ながら、明美と銀貨が戸惑い気味に返す。
「じゃあ早速行こうぜ。俺学校祭なんて初めてだから、実はちょっと楽しみなんだ」
テスターは銀貨の肩をたたくと、軽い足取りで歩きだした。
「あ、待ってアルベルト君」
「まずはどこ行くか決めないとっ……」
明美と銀貨が慌てて続く。
「じゃあこっちは、あたしたち3人だね♪」
「リュート様、本当にこれ持って歩くんですか?」
るんるんしているアスラを無視して――まあ反応するわけにもいかないのだが――セラがプラカードを指さす。
「これ持った上で3人で歩くってのは……ちょっと無理があるしな。持ってき忘れたふりしてここに置いてく」
多少後ろめたく思いつつも、リュートは肩をすくめて答えた。
と、バシンと背中をたたかれる。
「天城君、宣伝よろしくね!」
振り向けば悦子が、爛々とした目でこちらを見ていた。
「あ、ああ。適当にうろついてくるよ」
「しっかりね」
やたらゆっくり言ってくる。
もしかしたら今の会話を聞かれていたのかもしれないと思いつつも、
「おう、任せろ」
ぎこちない笑顔で押し通した。
◇ ◇ ◇




