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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
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4.ホンモノの定義① 待ちに待った襷野祭!

◇ ◇ ◇


 夏も本番間近な朝。

 張り切って活動を開始しているセミたちの鳴き声が、どこからか教室に入ってくる。

 少し前に梅雨は明け、今日も空はとびきり青い。


(もうすぐ夏休みか……)


 リュートは窓を通して空を見つめた。

 あっという間だ。

 (たすき)()高校に入学してからを振り返ると、たった数か月しか()っていないのに、本当にいろいろなことがあった――


「天城君!」


 回想シーンに入る前に、(しっ)(せき)するような呼び声が耳に入ってきた。

 慌てて視線を声の主に戻すが、焦っていたため一度通り過ぎ、さまよわせてからの注視となった。

 リュートの視線を受けた生徒――江山悦子は円陣の中央、机を後ろに寄せた教室の真ん中で、腕組みをして眼鏡をぎらりと光らせる。


「待ちに待った(たすき)()祭! この日のために私たちは、ひとりひとりが全力投球、一丸となって準備してきました。今日はその成果を、観客に見せつけましょう……って話をしてるのに、なんであなたはよりによって、私の真正面で上の空なのっ⁉」

「わ、悪い……」


 言い訳の余地もない自分の態度に、さすがに反省の弁を述べるリュート。


「まあいいけど……それじゃあ、スタッフは搬入可能時刻になったら、それぞれ担当の物を運び込んで。主要キャストは衣装着て宣伝に回って。メークはまだしなくていいけど、カツラの類いは忘れずにね」


 悦子は自分を囲むクラスメートたちをぐるっと見回した。

 最近ではもっぱら、級長ではなく彼女がクラスを取り仕切ることがほとんどだ。


「なにかあったら連絡入れるけど、時間まではひとまず自由時間だから。はい、解散っ」


 悦子の号令を受けて、生徒たちが思い思いに散開する。


「リュート様、私たちはどうします?」

「一応二手に分かれるか?」


 両隣から、セラとテスターが聞いてくる。テスターが言う『二手』というのには、もちろん()()も含まれているだろう。

 リュートは半歩引いて身体(からだ)を傾け、後ろにいる()()(いち)(べつ)した。


「そんなの決まってるよ、(たすき)()祭を満喫するの! あたしだけじゃなく、みんなだって学校祭なんて初めてでしょ? だったら思いっきり楽しまなきゃ♪」


 アスラがテンション高く拳を振り上げる。

 学校祭という閉鎖された環境では、いざというときの自由も利きにくい。テスターが提案する通り、念のためアスラと明美は引き離しておいた方がいいかもしれない。


(こんなのそもそも、学長様に気にかけていただきたい事案だけどな)


 アスラの(たすき)()祭見学を認めた辺り、最近のセシルは頭がおかしいとしか思えない。

 とはいえアスラの軟禁に異を唱えたのは自分なのだから、強くは非難できないが。

 リュートは口を(ひら)いた。


「そうだな、取りあえずは――」

「あ」


 アスラの間の抜けた声の理由を、リュートはワンテンポ遅れて理解した。


「邪魔」

「……それ言うためだけに殴ったのか? (つの)(ざき)


 後頭部を押さえながら、半目で振り向く。


「ちょっと小突いただけじゃん。被害妄想激しいんじゃないの?」


 (りん)が鬱陶しそうに鼻を鳴らす。宣伝用のプラカード――恐らくはそれで『ちょっと小突いた』のだろう――を担ぐように持って、自分こそ無駄に邪魔な体勢を取っている。

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