3.今日を生きよう、明日を歌おう⑦ ファイトだよ!
◇ ◇ ◇
クレーンのアームがゆっくりと降りていき、獲物を捕らえる。
その後、少しの間を挟んでから上昇するクレーン。獲物も一緒に引き上げられ――
接地面と離れかけたところで、アームからぼとりとこぼれ落ちる。
「ぁあっ……」
(――くそ!)
外に出かけた毒づきを、なんとか胸中に押しとどめる。
すでに10回近くはプレイしているが、予想通り――いやそれ以上に進展がない。
(なんだこれ、ただただいらつくだけじゃねーか。地球人はこんなのが楽しいのかよ⁉)
リュートがプレイしているクレーンゲームは、景品そのものではなく、代替物をターゲットとする類いのものだった。代替物である猫の縫いぐるみは、紐で台下にある金網板につながれている。縫いぐるみが台から落ちれば連動して金網板が引っ張られて傾き、その上にある商品が穴に落ちるという仕組みだ。
で、肝心の縫いぐるみがなかなか落ちない。
アームでつかんで縫いぐるみの身体を持ち上げるところまでは、難なくいける。
が、重りでも詰め込まれているのか、頭の方が上がってくれない。それをなんとかして落とせというのがこのゲームの趣旨なのだろうが、全くもってうまくいかない。このままでは、いたずらにお金を消費するだけだ。
「頑張ってリュー君、ファイトだよ!」
傍らから届くアスラの声援を聞きながら、リュートはただひたすらに焦っていた。縫いぐるみの配置を確認しようと思わず身を乗り出し、ショーケースに額をぶつけるくらいに。
(つーかさっさと終わらせねえと、視線が痛い)
身を引いて、自身の格好を見下ろす。
通りすがりの客が、リュートの学生服や緋剣に目を留めているのは気づいていた。もしかしたら写真も撮られているかもしれない。
傍目には、特別帯剣許可を得た臨時権限者である訓練生が、ゲームセンターで遊んでいるというこの状況。特段禁止されているわけではないが、心証としては明らかに良くない。
無言の圧力を背後に感じつつ、リュートは急ぎ方針を立てていった。
(取りあえず端まで移動させて、アームで押し込んでみるか)
プレイ数回分を使って、縫いぐるみを少しずつ台――これがまたいやらしく、縁が分厚く引っかかるようになっている――の端に移動させ、アームで押し込む。
と思ったら失敗して、逆に縫いぐるみの位置が戻ってしまう。
再び慎重に移動させ、押し込んで、ようやく――本当にようやくだ!――縫いぐるみが台から落ちる。続けざまに金網板が傾き、景品が取り出し口へと滑り落ちてくる。
「! やったぁ! ほらねリュー君、ちゃんとできたっ!」
「そ、そうだな……できればもうちょっと……力弱めて……」
歓声を上げるアスラに抱きつかれ――というより締め上げられながら、リュートはかがんで商品を取り出した。
それはアンティーク調にデザインされた懐中時計だった。パッケージ正面が透明なため蓋部分は見えるが、中の文字盤は箱掲載の写真でしか確認できない。
(そんなにこれがいいのか?)
手にした箱をくるくると裏返し、疑問符を浮かべる。
一応時計としての機能はもつようだが、熱烈に欲しがる物でもないように思えた。
が、アスラは違うらしい。きらきらしたまなざしで、こちらの手にある箱を見ている。
リュートは息をつき、箱を掲げた。
「これでご満足ですか?」
「はい、ご満足ですっ♪」
アスラは極上の笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇




