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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
246/389

3.今日を生きよう、明日を歌おう⑦ ファイトだよ!

◇ ◇ ◇


 クレーンのアームがゆっくりと降りていき、獲物を捕らえる。

 その後、少しの()を挟んでから上昇するクレーン。獲物も一緒に引き上げられ――

 接地面と離れかけたところで、アームからぼとりとこぼれ落ちる。


「ぁあっ……」

(――くそ!)


 外に出かけた毒づきを、なんとか胸中に押しとどめる。

 すでに10回近くはプレイしているが、予想通り――いやそれ以上に進展がない。


(なんだこれ、ただただいらつくだけじゃねーか。地球人はこんなのが楽しいのかよ⁉)


 リュートがプレイしているクレーンゲームは、景品そのものではなく、代替物をターゲットとする類いのものだった。代替物である猫の縫いぐるみは、(ひも)で台下にある金網板につながれている。縫いぐるみが台から落ちれば連動して金網板が引っ張られて傾き、その上にある商品が穴に落ちるという仕組みだ。


 で、肝心の縫いぐるみがなかなか落ちない。

 アームでつかんで縫いぐるみの身体(からだ)を持ち上げるところまでは、難なくいける。

 が、重りでも詰め込まれているのか、頭の方が上がってくれない。それをなんとかして落とせというのがこのゲームの趣旨なのだろうが、全くもってうまくいかない。このままでは、いたずらにお金を消費するだけだ。


「頑張ってリュー君、ファイトだよ!」


 傍らから届くアスラの声援を聞きながら、リュートはただひたすらに焦っていた。縫いぐるみの配置を確認しようと思わず身を乗り出し、ショーケースに額をぶつけるくらいに。


(つーかさっさと終わらせねえと、視線が痛い)


 身を引いて、自身の格好を見下ろす。

 通りすがりの客が、リュートの学生服や()(けん)に目を()めているのは気づいていた。もしかしたら写真も撮られているかもしれない。

 (はた)()には、特別帯剣許可を得た臨時権限者である訓練生が、ゲームセンターで遊んでいるというこの状況。特段禁止されているわけではないが、心証としては明らかに良くない。

 無言の圧力を背後に感じつつ、リュートは急ぎ方針を立てていった。


(取りあえず端まで移動させて、アームで押し込んでみるか)


 プレイ数回分を使って、縫いぐるみを少しずつ台――これがまたいやらしく、(へり)が分厚く引っかかるようになっている――の端に移動させ、アームで押し込む。

 と思ったら失敗して、逆に縫いぐるみの位置が戻ってしまう。

 再び慎重に移動させ、押し込んで、ようやく――本当にようやくだ!――縫いぐるみが台から落ちる。続けざまに金網板が傾き、景品が取り出し口へと滑り落ちてくる。


「! やったぁ! ほらねリュー君、ちゃんとできたっ!」

「そ、そうだな……できればもうちょっと……力弱めて……」


 歓声を上げるアスラに抱きつかれ――というより締め上げられながら、リュートはかがんで商品を取り出した。

 それはアンティーク調にデザインされた懐中時計だった。パッケージ正面が透明なため蓋部分は見えるが、中の文字盤は箱掲載の写真でしか確認できない。


(そんなにこれがいいのか?)


 手にした箱をくるくると裏返し、疑問符を浮かべる。

 一応時計としての機能はもつようだが、熱烈に欲しがる物でもないように思えた。

 が、アスラは違うらしい。きらきらしたまなざしで、こちらの手にある箱を見ている。

 リュートは息をつき、箱を掲げた。


「これでご満足ですか?」

「はい、ご満足ですっ♪」


 アスラは極上の笑みを浮かべた。


◇ ◇ ◇

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