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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
243/389

3.今日を生きよう、明日を歌おう④ もぞもぞ

◇ ◇ ◇


 映画館に場所を移しても、心の掘削はまだまだ続く。


「いらっしゃいませ」

「あ……っと。シアター6の、14時からの映画をお願いします」

「『散りゆく君への千年(れん)()』ですね。席をお選びください」

「ええっと……E―8とE―9で」

「? 2名様ですか?」

「あ、はい」

「なあなあ、前にいるやつって(わたり)(びと)じゃねえか?」

「ほんとだ。へー、(わたり)(びと)も映画とか()るんだ」

「でも恋愛映画をひとりでって相当やべえだろ」

「連れがいるんじゃないの? 2名って言ってたし」

「おひとりさまが恥ずかしくって、いない連れの分まで買っただけかもしんねえぜ」

「うっわなにそれハズい。マジウケるー♪」


◇ ◇ ◇


(マジへこむー……)


 組んだ手の上に額を乗せ、リュートはシアター6の座席でうなだれていた。

 周囲にいるのは若い男女のカップルや友人グループなどばかりで、見た目ひとりでいるリュートは、恐らく少数派だろう。

 そんなの気にする方がおかしいと自分に言い聞かせるも、チケット売り場で散々笑い物にされたのが尾を引いて、この場にいること自体が半端なく恥ずかしい。

 さらには、


「リュー君、その体勢つらくない? 大丈夫?」

「ああ、大丈夫……」


 リュートはぼそりと、隣に座るアスラだけが聞き取れるくらいの声量で返した。

 身じろぎした拍子に、両膝で挟み込んでいた()(けん)が倒れ落ちそうになる。慌てて(つか)をつかんで()(けん)を立て直し、ため息をひとつ。


 教室の椅子程度なら帯剣したまま座ることもできるが、劇場の座席ともなるとさすがに無理だ。一時的とはいえ暗がりになるような場所に、()(けん)をじか置きするわけにもいかない。

 そうなると抱きかかえるか膝で挟み込むくらいしか手はなく、後ろの視界を遮る可能性が――正しくはそれによってクレームが入るのが――怖いリュートは、後者の手段を選択したのだが。


 ()(けん)を膝に挟み込んでまで必死に恋愛映画を()ようとしているみたいで、恥ずかしさも倍増だ。たとえ周囲が、自分が思ったほどにはこちらを注視していなくとも。

 自意識過剰な羞恥心にさいなまれていると、ブザーが鳴って照明が落ちた。


「わーい! 映画だぁー!」


 声が聞こえないのをいいことに、アスラが歓声をあげる。

 リュートはというと、ようやく周囲の目が気にならなくなり、ほっと息をついてスクリーンに目を向けた。リュート自身も映画は初めてのため、実は少し――ジャンルはともかくとして――楽しみではあった。

 しかし始まったのかと思いきや、関係ない映画の予告集が延々と流れ続けた。そのため本編が始まる頃には、巨大スクリーンや音響から受ける迫力にも慣れきってしまい、興奮のピークはとうに過ぎ去ってしまった。

 一方アスラは興奮が続いているのか、


「わあっ、この女優さんきれいだねえ!」

「左右のスピーカーを使い分けて、位置関係とかも表現してるんだね! すごい!」


 などと、引っ切りなしに感想を吐き出している。

 こちらは当然声を出すわけにもいかないので、リュートはアスラの感想をおとなしく聞きながら、甘々なストーリーを鑑賞していた。


(……どうせならミステリーとかアクションモノがよかったな)


 手を握り合って寄り添う男女のシーンを見届けながら、ぼんやりと思う。

 別にこの作品が嫌いだとか、内容を否定したいわけではない。ただ、終始――まだ途中だが、恐らくは終始だきっと――漂うキャラメルソースのように甘い雰囲気が、背中をむずがゆくさせるのだ。

 もぞもぞ動きたくなるような感覚を抱えたまま、映画は終盤へ。


 ――ヒロインは最期の時を迎えようとしていた。

 誰もいない海辺で、ただひとり。

 しかし命の(ともし)()が消えようとするその時、主人公はヒロインの元へとたどり着く。

 彼らはふたりだけの時間を静かに刻み――


 ――次元がずれた。

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