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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
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3.今日を生きよう、明日を歌おう① もうへばってんのか?

◇ ◇ ◇


 じりじりとした日差しが肌を焼く。まだ夏本番ではないというのに、十分過ぎる熱量がリュートの身体(からだ)をうだらせていた。


「あっつ……」


 手の甲で額の汗を拭い、リュートは周囲を見回した。上半身だけ脱ぎ捨てられた上着が、ベルトを支えにゆらゆら揺れる。

 テスト明け初めての土曜日ということもあり、中庭には人があふれていた。(みな)、翌週に控えた(たすき)()祭の準備に追われている。


「なんだよ天城。もうへばってんのか? (わたり)(びと)のくせに」

「暑さに(わたり)(びと)もクソもあるかよ」


 近くでペンキの()()を振るっている()(えき)(しゅん)(すけ)に、八つ当たりも込めて毒づく。

 とはいえ、それでなにか変わるわけでもないので、リュートはおとなしくノコギリをひく作業へと戻った。ベニヤ板から生じた木くずが風に舞って、汗ばんだ腕へと付着する。

 顔をしかめて木くずを払うと――こんなに舞うならマスクでも着ければよかった――リュートはぶつくさつぶやいた。


「つかなんで俺が大道具の補修しなきゃなんねーんだよ。俺はもう係じゃないってのに」

「お前が壊したからだって聞いたけど」

「鬼が出たんだからしょうがないだろ」

「文句つけてる間に、手を動かした方が早く終わるぜ」

「やってるって」


 言うと同時、ベニヤ板を切り落とす。およそ1メートル四方にカットされたベニヤ板を手に、リュートは背後を振り返った。

 目の前にあるのは、重しを使って置かれた、大道具のパネル。その下半分の表面は剝ぎ取られ、骨組みである角材がむき出しとなっている。

 リュートはそこにベニヤ板を押し当てた。ノコギリから(かな)(づち)へと道具を持ち替えながら、奥に見える体育館へと目をやる。

 解放された側面出入り口の(ふち)にもたれるようにして、テスターが立っている。


「くっそ。テスターのやつ、楽しやがって」


 にらみつけながらも、リュートにはそれが的外れな(ねた)みだと分かっていた。別にテスターは楽をしているわけではない。


「ねーテスくーん。テス君ってばー。つまんないよー」


 テスターとは反対側の(ふち)にもたれて、アスラがぼやく。

 できればアスラを、こちら側へと取り込みたい……というセシルの意向を受けて、テスターは学校へ来たがるアスラの、見張り役を務めていた。

 しかしこれが結構な難易度で、遊びたがるアスラをなだめるのに、テスターは苦労しているようだった。なにせアスラは地球人には視認できないため、彼女と普通に話していたら怪しまれる。特に頭を怪しまれる。

 だからといって、(ひと)()のない所に退避しようとするとアスラが嫌がるようで、テスターは度々、(はた)()には不審な動きでアスラを押しとどめていた。

 今もまた、ため息をつきながらアスラの手をつかんで引き戻している。


(……やっぱあれよりはマシか)


 文句を言うのは(ぜい)(たく)だ。

 リュートは自身の役割を不承不承受け入れ、地面に置かれたケースから(くぎ)をつまみ取った。(かな)(づち)を振るって、ベニヤ板を角材に打ちつけていく。


「アルベルト君、ちょっといいー?」


 体育館の中から、テスターを呼ぶ声。声の(ぬし)は恐らく()(やま)(えつ)()だ。

 体育館の舞台は今の時間帯、リュートたち1年1組に割り当てられている。せっかく舞台が使えるのだからと、悦子は今朝から張り切って劇練を指揮していた。もうすぐリュートも、出番が来て呼ばれるだろう。

 キャストではないテスターが呼ばれたということは、たぶん大道具関連の用事だ。


「なんだ? 今行く」


 答えつつも、迷っている様子のテスター。


(……そうか。体育館には今、須藤がいるから)


 この自由には動けない環境の中、アスラをなるべく明美に近づけたくはないのだろう。

 ――などと、ベニヤ板の打ちつけ具合を確認しながら見守っていたら、なんとテスターはアスラをつつき、興味を誘導するようにこちらを示してきた。


(おい!)


 リュートは慌ててテスターをにらんだ。

 しかし彼は手ぶりと口パクで「悪い」とだけ言うと、さっと身を翻して体育館に入っていってしまった。

 行き場をなくしたリュートの視線は、そのまま――うっかり――アスラと絡まった。


(やべっ……)

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