表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
237/389

閑話.彼女の気遣い③ それが兄を護ることにつながるのだ。

◇ ◇ ◇


(おかしいわね……)


 翌朝の食堂。

 再びアスラと席を共にしながら、セラはいぶかった。


(これだけ一緒にいるのに、全く異常を感じない……)


 昨日(きのう)(たすき)()高校を欠席してまで、丸1日アスラと行動を共にした。なのにセラの身体(からだ)にはいまだに、平常を上回る疲労は訪れていない。

 セラは食後のコーヒーを1口すすると、カップを置いて視線を落とした。テーブルの上にある2枚の皿。提供する物を失い、今はもうなにも載せていない。1枚はセラが、もう1枚はアスラが皿上の提供物――トーストを胃に収めた。

 アスラに、通常の意味での食事は必要ない。どれだけ食べても糧とはならないからだ。

 しかしセラたちと同じスタイルでいたいと、こうして一緒に食事を取ったりはする。


(ほんと、トースト(こういうもの)で生命を維持してくれるなら、どれだけありがたいか)


 睡眠だって同様だ。アスラは眠らない(というより眠れない)らしいが、ではなにを代わりにして休息を得ているのか。自分たちは気づかぬうちに、彼女になにかを奪われているのではないのか……

 そうやって、ひとつひとつの不安要素に気をもっていかれるのが鬱陶しい。


(だけど――いえ、だからこそ、私がしっかり見極めなきゃ……)


 結局のところ、それが兄を(まも)ることにつながるのだ。


「どうしたのセラちゃん?」


 テーブルを挟んで、きょとんとした顔を向けてくるアスラ。セラは口を濁して探りを入れた。


「いえ別に……ただ(しん)()を分けている割には、あまり疲れないものだから……」

「なぁんだ、それっていいことじゃん♪ セラちゃんハッピー、あたしもハッピー★ ね?」

(羨ましいくらいにお気楽ね)


 (ほお)(づえ)を突き嘆息する。こちらは必死に答えを探しているというのに。

 対するアスラは、リンゴジュースを一息に飲み干して、(のん)()に笑う。


昨日(きのう)は楽しかったなー、1日中セラちゃんが遊んでくれて。また遊ぼーね♪」

「しばらくは無理かしらね」


 セラは渋面をつくって視線をスライドさせた。テーブルの脇に立てかけてある、洗車道具を捉えたところで目が()まる。

 高校の独断欠席への処罰内容は、早朝からの洗車であった。アスラは手伝いを申し出てくれたが、助力を得ては処罰にならない。


(面倒だけど、自業自得だものね……)


 登校前の洗車とは、なかなかにきつい罰だった。高校の欠席について、事前に許可を求めていたらまた違ったのかもしれないが……

 あの腐った学長が許可してくれるとも思えなかったし、独断実行の方が兄たちを巻き込まずに済むかもしれないと思い、結局、上には無断で欠席した。であればまあ、このきつさも仕方ない。むしろ処罰(されること)のエキスパートである兄いわく、これくらいじゃ生ぬるいらしいが。


守護騎士(ガーディアン)の出動車を洗うんだよね? あたしも手伝うよ♪」

「だからそれじゃあ処罰にならないでしょ。あなたは部屋にでも戻って、おとなしくしてなさい」

「えー。毎晩ひとりで時間潰してるんだよ? もう部屋は飽きちゃったよぉ」

「わがまま言わないの」

「でもでも、あたしセラちゃんと一緒に洗車した――」


 ぶつりと途切れる言葉。

 言葉を()めたのはアスラだが、どうにも彼女の意思ではないようだった。

 アスラの顔が身体(からだ)ごとかしぎ、はっと慌てたように目を見開く。


「どうしたの?」

「あは、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったみたい。セラちゃんの言う通り、今日はおとなしくしてようかな」


 アスラは(おお)()()なくらいの笑い声を上げると、席を立って足早に食堂を出ていった。

 その背を見送りながら、セラは。


(あの()……)


 気づきたくなかった事実に気づいて、思い切り顔をしかめていた。


◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ