閑話.彼女の気遣い② 正直なところどっちもどっちだ。
◇ ◇ ◇
「あれ? セラじゃん。まだいるなんて珍しいな」
食堂の片隅に金髪の後ろ姿を捉え、テスターが声を上げる。
特に口に出しはしなかったが、リュートも隣で同様のことを考えていた。
須藤明美の登下校に付き合うようになってからは、セラと連れ立って訓練校を出るのが常だった。しかし朝食に関しては、各自好きな時間帯に取っているため、超朝型のセラと食堂で出くわすことはまずないのだが……
(アスラに用事でもあったのか?)
セラと向かい合って座っている、銀髪の少女――こちらは毎朝の例に漏れず、リュートたちを待っていたのだろう――を見やる。
堕神を自称する少女と、生真面目さから時に暴走しがちな妹。トラブル発生の懸念でいえば、正直なところどっちもどっちだ。
だからこそ、特にもめているわけでもなさそうなふたりを見て、リュートは内心ほっとした。
(って、さすがに気にし過ぎか)
思っていると、セラが椅子に背を預けたままこちらを振り向いた。アスラも導かれるように視線を動かし、リュートと目が合った瞬間、ぱっと顔を一段階明るくした。
が、なにを思ったのか、アスラははっとしたように顔を引き締め、がたりと立ち上がった。声をかける間もなく、奥の出入り口から駆け去っていく。
「?」
挨拶のため上げかけていた手を、持て余すように揺らしていると。
「おはようお兄ちゃん、テスター君」
セラが席を立ち、こちらへと歩いてきた。
「っはよー」
「おはよう。ってか、どうしたんだアスラは。なんか真剣な顔して出てったみてーだけど」
聞くとセラは、ごまかすように笑みを浮かべた。
「んー、なんか急用を思い出したみたい」
「ふうん。で、お前はどうしたんだ?」
「そうそう。いつもなら、もう寮室に戻ってる頃合いだろ?」
あくびを嚙み殺し、テスター。
「別に。たまには家族と朝食を共にするのもいいかなって」
「ってことはまさか、学長も来るのか?」
「あれは家族じゃないわ」
容赦なく切り捨てて、セラがリュートの腕を取る。
「ほら、ご飯食べるんでしょ。早く席着いて」
「あ、ああ……」
やけに押しの強いセラに手を引かれ、リュートは席へと向かった。
「あ、そうだお兄ちゃん。私今日は学校休むから、よろしくね」
「なんだよ急に。体調でも悪いのか?」
「そういうわけじゃないけど……ちょっとあの娘のことで、気になることがあるのよ。その調査のため。いいでしょ?」
「いいわけねーだろ。つかお前、入学当初も同じことやってんじゃねーか。そう何度もわがままが通ると――」
「よろしくね」
有無を言わさぬ口調で、セラが言う。
さらにはなぜか、テスターまでもが同調してきた。
「いいんじゃないかリュート。1日くらい、俺らだけでもなんとかなるだろ。それにアスラのことは、調べたって損はない」
テスターの言葉には一理あったが、リュートが気にしていたのはもっと別種のことだった。
「そうかもしれねーけど……俺らがいいとしても、上層部様がよくねーだろ。高校通うのだって、一応は任務なんだし」
嫌みったらしい学長様の笑みを思い浮かべながら指摘すると、
「そこはまあ、サンドバッグのお前がいるから」
「なんでナチュラルに俺が捨て石になってんだよ⁉」
「大丈夫よ、その辺りは私がなんとかするから。とにかくよろしくね、お兄ちゃん」
「よろしくされたくねえ……」
リュートはぐたりと肩を落とした。連日たまった疲れに心労が上乗せされ、いつの間にか、アスラへの気がかりも意識からこぼれ落ちていた。
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