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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
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閑話.彼女の気遣い② 正直なところどっちもどっちだ。

◇ ◇ ◇


「あれ? セラじゃん。まだいるなんて珍しいな」


 食堂の片隅に金髪の後ろ姿を捉え、テスターが声を上げる。

 特に口に出しはしなかったが、リュートも隣で同様のことを考えていた。

 須藤明美の登下校に付き合うようになってからは、セラと連れ立って訓練校を出るのが常だった。しかし朝食に関しては、各自好きな時間帯に取っているため、超朝型のセラと食堂で出くわすことはまずないのだが……


(アスラに用事でもあったのか?)


 セラと向かい合って座っている、銀髪の少女――こちらは毎朝の例に漏れず、リュートたちを待っていたのだろう――を見やる。

 ()(しん)を自称する少女と、生真面目さから時に暴走しがちな妹。トラブル発生の懸念でいえば、正直なところどっちもどっちだ。

 だからこそ、特にもめているわけでもなさそうなふたりを見て、リュートは内心ほっとした。


(って、さすがに気にし過ぎか)


 思っていると、セラが椅子に背を預けたままこちらを振り向いた。アスラも導かれるように視線を動かし、リュートと目が合った瞬間、ぱっと顔を一段階明るくした。

 が、なにを思ったのか、アスラははっとしたように顔を引き締め、がたりと立ち上がった。声をかける間もなく、奥の出入り口から駆け去っていく。


「?」


 挨拶のため上げかけていた手を、持て余すように揺らしていると。


「おはようお兄ちゃん、テスター君」


 セラが席を立ち、こちらへと歩いてきた。


「っはよー」

「おはよう。ってか、どうしたんだアスラは。なんか真剣な顔して出てったみてーだけど」


 聞くとセラは、ごまかすように笑みを浮かべた。


「んー、なんか急用を思い出したみたい」

「ふうん。で、お前はどうしたんだ?」

「そうそう。いつもなら、もう寮室に戻ってる頃合いだろ?」


 あくびを()(ころ)し、テスター。


「別に。たまには家族と朝食を共にするのもいいかなって」

「ってことはまさか、学長も来るのか?」

「あれは家族じゃないわ」


 容赦なく切り捨てて、セラがリュートの腕を取る。


「ほら、ご飯食べるんでしょ。早く席着いて」

「あ、ああ……」


 やけに押しの強いセラに手を引かれ、リュートは席へと向かった。


「あ、そうだお兄ちゃん。私今日は学校休むから、よろしくね」

「なんだよ急に。体調でも悪いのか?」

「そういうわけじゃないけど……ちょっとあの()のことで、気になることがあるのよ。その調査のため。いいでしょ?」

「いいわけねーだろ。つかお前、入学当初も同じことやってんじゃねーか。そう何度もわがままが通ると――」

「よろしくね」


 有無を言わさぬ口調で、セラが言う。

 さらにはなぜか、テスターまでもが同調してきた。


「いいんじゃないかリュート。1日くらい、俺らだけでもなんとかなるだろ。それにアスラのことは、調べたって損はない」


 テスターの言葉には一理あったが、リュートが気にしていたのはもっと別種のことだった。


「そうかもしれねーけど……俺らがいいとしても、()()()()がよくねーだろ。高校通うのだって、一応は任務なんだし」


 嫌みったらしい学長様の笑みを思い浮かべながら指摘すると、


「そこはまあ、サンドバッグのお前がいるから」

「なんでナチュラルに俺が捨て石になってんだよ⁉」

「大丈夫よ、その辺りは私がなんとかするから。とにかくよろしくね、お兄ちゃん」

「よろしくされたくねえ……」


 リュートはぐたりと肩を落とした。連日たまった疲れに心労が上乗せされ、いつの間にか、アスラへの気がかりも意識からこぼれ落ちていた。


◇ ◇ ◇

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