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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
233/389

2.期末テストの難⑨ 分かる。分かるぞ俺は。

◇ ◇ ◇


「9割5分ぅ? お前それはちょっと、()()張り過ぎなんじゃないか?」

「セラに言えよ」


 茶色く染まった古文の問題集――以前(もろ)(もろ)の事情でコーヒー牛乳を引っかぶった――に目を落としながら、リュートは八つ当たり気味にテスターに返した。

 テストが目前に迫っているので、今日も今日とて、アスラの部屋として固定化されたゲストルームで、みんなで仲良く(?)勉強会だ。(たすき)()高校の試験期間中は訓練校の補習もないので、夕食後はめいっぱい勉強できる……現状唯一の救いがそれというのも、むなしさがあるが。

 リュートはノートにペンを走らせながら、ぐちぐちと続ける。


「しなくてもいい勝負をふっかけて、おかげで俺はクズ認定の危機じゃねーか」

「なに言ってんのよ。私が論点ずらしてあの流れに持って行かなきゃ、泥棒疑惑をうやむやにできなかったでしょ」


 ローテーブルの向かいから、セラが手厳しい言葉を放ってくる。


「ていうかなにがあったか知らないけど、疑われるような言動するなんて油断し過ぎ」

「リュー君は悪くないよっ。あたしが――」

「いや俺が悪いんだっ」


 部屋奥の簡易キッチンから顔を出したアスラの言葉を、リュートは慌てて遮った。

 実をいうと、アスラが問題用紙をくすねてしまったことは、セラにもテスターにも話していない。アスラにも――今は怪しかったが――きちんと口止めしてある。

 アスラの話では、問題用紙は無事元の場所に戻したとのことだったので、言う必要がない……というのが自分の中での建前で、本音はそんなことを話せば、セラがさらにぶち切れそうで怖かったのだ。


(こいつここんとこ、ほんとこえーからな……)


 ちらりと正面をうかがい見る。セラは、


「なによ、かばっちゃって……」


 などとぶつぶつつぶやきながら、下を向いて作業していた。


「そういやセラ、さっきからなにやってんだ。リュートの勉強みてやらなくていいのか?」


 テスターが椅子の背に腕を回して、顔だけを向けてくる。言う自分こそこちらに話しかけてばかりで、ライティングデスクにろくに顔を向けていない。


「そのための作業よ……と。調整完了っ」


 セラが満足げな顔で、どんとデーブルの上に置いた物を見て。


「あー待て。分かる。分かるぞ俺は」


 リュートはこめかみに手を当てた。

 セラの手にある電源から伸びる幾本ものコード。それぞれの先端には、小さなパッドが取りつけられている。


「これは電気で脳を刺激して暗記を助けるとか、その類いの装置だろ。研究棟から借りてきたんだろうけど、そんなん素人が()()してうまくいくわけねーだろ。やめろよそういう安易な考え」

「そんなの使うわけないじゃない。確かに研究棟から借りた物だけど、もっとシンプルなものよ」


 セラがテーブル越しにリュートの左手をとり、シャツの袖をまくる。


「答えを間違えるたびに、健康に支障が出ない程度の電気ショックを与えるだけ」

「やめろよそういう追い詰め方!」


 バシッと手を払いのけるが、すぐさま捕まりテーブルの上に押さえつけられる。

 セラはパッドを手の甲、手首……と隙間なく――それは敷き詰めていいものなのかと不安を禁じ得なかった――貼りつけていきながら、


「電気ショックが嫌ならとっとと覚えて。いいわね?」

()(ちゃ)言うな――」

「じゃ早速。百人一首の暗唱よ。第51番は?」

「へ?」

「51番よ」


 スイッチを片手にいらいらと(ほお)(づえ)を突くセラ。

 リュートはなるべく刺激しないよう、穏便に言い訳した。


「いや俺、百人一首は捨て分野にしてたから、あまり覚えては……」

「馬鹿言わないで。先生が6点分出すって公言してたじゃない。これできなきゃ一発アウトよ。ほら51番は」

「ええっと……君がため――」

「不正解!」

「っ⁉」


 左腕に走った刺激に、声なき悲鳴が上がる。以前研究助手の学内バイトをした時に受けた電気刺激を、はるかに上回る衝撃だった。


「第51番は『かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを』よ。覚えたっ⁉」

「りょ、りょーかひ……」


 なぜかヒステリックに叫ぶセラに、なんとか答える。

 が、すぐに後悔する。ここできちんと(きゅう)()すべきだった。


「それじゃあ時間も限られてるし、どんどん行くわよ。間違えるたびにボタン押すからね!」


 セラはぎらついた目で無慈悲な宣告をした。


◇ ◇ ◇

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