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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
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2.期末テストの難③ なにをたくらんでるんだ?

「にしても意外だな。あんたにしては、やけにいい待遇を提供するじゃねーか」

「なんだ嫉妬か?」


 小馬鹿にするような口調で、セシル。


「私はね、彼女をこちら側に取り込みたいと思っているのだよ。その彼女が自ら歩み寄ろうとしてくれている。受け入れて損はないだろう?」


 アスラがこの場にいるというのに、開けっ広げにセシルは言う。

 しかしアスラ当人は――少なくとも見た目には――さして気にしたふうもなかった。むしろ、


「そうそう、あたしの気を引くチャンスだよ? だから、ね? リュー君お願い! あたしを学校に連れてって!」


 セシルの言葉に乗っかって、両手を合わせて懇願してくる。


「いや、お願いって言われても……」


 視線をそらしてはぐらかすリュート。本音を言えば、これ以上面倒くさいことは抱えたくなかった。

 するとアスラは存外すぐに諦め、矛先を他へと変えた。ぴょんと一跳びでローテーブルも越えてベッド上に飛び乗り、テスターへと迫る。


「ね、お願いテス君っ。このとーり!」


 テスターはさっと身体(からだ)をひねってアスラの捕獲(?)範囲から逃れると、時計に向かって疑問を呈した。


「学長、本当によろしいのですか? 女神様が宿る須藤明美は、俺たちと同じクラスですが」

「もちろん不安なことに変わりはない。だから君たちが細心の注意でもって、彼女の面倒をみなさい。なにせ彼女が味方になれば、()(しん)一掃の可能性も夢見られるのだからな」

「あたしそういうのだけは協力しないってば!」

「ああそうだったな」


 素早く否定の声を上げるアスラに、セシルがおざなりな(あい)(づち)を打つ。

 その声音に違和感を覚え、リュートは目を細めた。


「お前……なにをたくらんでるんだ?」

「だから言っただろう。彼女をこちら側に取り込みたいと」


 無機質な時計から返ってきたのは、無機質な声だった。セシルがなにを考えているのか、そこからは読み取れない。

 しばらく待ってもそれ以上はなにも返って来ず、リュートは仕方なく決めた。


「分かったよ。明日(あした)アスラを学校に連れていく」

「ほんとっ⁉ ありがとリュー君!」

「馬鹿危ねえって!」


 再びこちらへと飛んでくるアスラを受け止め――きれずに押し倒され、後ろのソファに頭をぶつけるリュート。頭上に星が飛ぶ中で、セシルの「くれぐれも目は離さぬようにな」という声が聞こえてくる。


「その様子だと、アスラの保護者はお前で決まりだな」

「分担に決まってんだろ」


 きししと笑うテスターに、リュートは身を起こしてむすりと返した。

 すぐにちゃかしてくる友人にそろそろ一言言いたいところだが、それよりも先に対処しなければいけないことがある。


「さて話は終わりだ。あとは存分に語らうがいい」

「ああ、そうさせてもらう」


 リュートは時計をむんずとつかんで立ち上がった。そのまま歩いて扉を(ひら)き、廊下に時計を置いて扉を閉じる。

 すたすたと戻って座り直すと、アスラがきょとんと聞いてきた。


「追い出しちゃうの?」

「そりゃな。盗聴なんてされたくねーし」

「そっかリュー君、反抗期なんだね」

「お父さんには聞かれたくないお年頃か」

「違う! 会話が筒抜けなんて普通嫌だろ!」

「あたしは気にしないけど」

「俺も別にどうでも」

「あーそうかよ!」


 リュートは乱暴に切り上げ、勉強へと戻った。

 部屋の外から足音が近づいてくる。それは扉の前まで来たところで、がっとなにかを蹴飛ばしたらしい。硬い物が転がる音と、聞き覚えのある罵声が耳に届く。

 兄妹(きょうだい)そろって馬鹿にされている気がして、リュートは投げやりに問題文を目で追っていった。


◇ ◇ ◇

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