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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
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1.鬼神の少女⑨ お前はどこまで貪り喰う気だ?

 誰よりも早く、テスターが険しいまなざしを送ってくる。


「リュート、そうなのか?」


 突然話の中心となったことにたじろぎながらも、リュートは努めて冷静に答えた。


「いやまあ確かにちょっと疲れてるけど、それは今朝からいろいろあったからで……」

「小娘。お前は無意識のうちに、こいつの(しん)()()っちまってる」


 一歩足を踏み出し、グレイガン。


「お前はどこまで貪り()う気だ?」

「違う! あたしはそんなことしないっ!」


 なじるグレイガンをはねのけるように、アスラが声を荒らげる。次いでこちらを振り向くと、彼女は必死な形相で訴えてきた。


「ごめんねリュー君、あたし知らなかった。ほんとに知らなかったの! これからは気をつけるから!」

「あ、ああ。俺は別に大丈夫……」


 実際差し迫った感覚もないものだから、こうまで深刻にこられると逆に後ろめたい気がしてくる。


「もしその下僕を生かしたいのであれば、慎重に()らうことだな。(しん)()を少しずつ分け与えるなら死ぬこともあるまい。もしくは、血液を取り入れるという手もある。直接摂取する分、効率良く補給ができるだろう。まあ私としては、その生意気な下僕が(しん)()を吸い尽くされて干からびようと、知ったことではないがな」


 腕を組んで相変わらずな女神を軽くにらみつけると、グレイガンが割り込んできた。


「次はイカ墨小僧、てめえに質問だ。この小娘が地球人に認識されなかったってのは本当か?」


 それはセシルから呼び出しがあった際に報告したことなのだが、セシルを通してグレイガンも聞かされたのだろう。

 リュートが「はい」と答えると、グレイガンは念を押すように聞いてきた。


「衣類も含めて丸ごとか?」

「……! はい、確かにそうでした」


 問われてようやく気づく。

 テスターも同様だったようで、口元に手を当てながら、考えをそのまま出すようにグレイガンに聞く。


「アスラ本体だけでなく、彼女の自己延長や所有意識によって、地球人の認識範囲が変わってくる……ってことですか?」

「大まかにはそんなとこだろ。その辺もおいおい追究してく事案だな」


 グレイガンはざっくりとまとめると、女神の方を(いち)(べつ)した。女神はおもむろにうなずく。


「っつーわけで、落としどころは対処案Bってとこだな」

「なんなんですか、その対処案Bっていうのは」


 リュートが思わず一歩踏み込むと、グレイガンは歯をむき出した。怒りではなく、獲物を()()る楽しさを示す所作だ。


「なんだなんだイカ墨ぼーや。場合によっては――って顔してんぞ。俺に斬りかかるか? 昔やったみたいに」

「まさか。場合によっては説得を試みるだけです」


 言うとグレイガンはつまらなそうに片頰を上げつつも、(おお)()()に口角をつり上げた。


「実はな。小娘を閉じ込める部屋はもう決まってんだ」


◇ ◇ ◇


「閉じ込めるって……ゲストルームじゃねーか」


 目の前に広がる(ぜい)(たく)な内装――一般的な水準なのかもしれないが、狭い寮室で暮らすいち訓練生にとっては十二分に(ぜい)(たく)だ――を前に、リュートは肩をこけさせた。

 無論ゲストルームをあてがわれたからといって、それに応じた扱いがされるわけでもない。アスラの正体は少数の者を除いて、(しん)(ぼく)にも秘匿されることになったのだから。


 訓練校の敷地内をアスラがうろついても、AR専科の制服を着た彼女の正体を怪しむ者はそういないだろう。しかし総代表執務室そばのゲストルームに居住していることなど情報の端々から、いぶかしむ(うわさ)が流れ出る可能性もある。

 それを回避するため、ある程度行動が制限されることは否めない。もしかしたら軟禁状態とさして変わらないかもしれない。


 しかしリュートはもっとあからさまな拘束・監禁を想像していたため、拍子抜けしてしまったのだ。

 からかわれたことへの不服と、穏便な対処への(あん)()がない交ぜになった顔で、部屋の入り口に突っ立っていると。


「え? え? ほんと? この部屋あたしが使っていいの? うっれしい! あたしの部屋だー♪」


 アスラが歓声を上げ、靴を脱ぎ捨て室内へと飛び込んでいく。


「ほんと元気な()だな」

「ただ元気なだけならいいんだけどな」


 苦笑を漏らすリュートの横で、テスターがぽつりとつぶやく。

 見やると彼は、当然だろとばかりに肩をすくめた。


「気にかけるのはいいけど、あんま入れ込み過ぎんなよ。いざというとき斬れなくなるぜ」

「分かってるよ」


 リュートは改めて、室内のアスラへと視線を転じた。

 ()(しん)の少女。

 警戒、敵意、困惑、動揺、興味、期待……

 あらゆる感情をかき立ててくる未知の存在。

 突然現れた鬼神(かのじょ)神僕(こちら)の気も知らないように、部屋を無邪気に駆け回っていた。


◇ ◇ ◇

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