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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
223/389

1.鬼神の少女⑧ みんなメルちゃんに怒ってる。

「あなたがメルちゃんだね」

「メル?」

「メルビレナよりも、そっちの方がかわいいでしょ」


 やや不快げに聞き返す女神に、あっさりと返すアスラ。

 女神はじっとアスラを見ると、


「まあいい。好きに呼べ」


 肩をすくめて後を続けた。


「それでは()(じん)の少女。単刀直入に問う。お前は私を殺したいか?」

「ううん、仲良くしたいよ」

「ならば――()(しん)を滅するのに協力するか?」

(はあ?)


 その問いはさすがにないだろうと、リュートは()(ぜん)と女神を見た。

 しかし女神は本気のようで、見定めるようなまなざしをアスラへと送っている。

 アスラはというと、すねたように頰を膨らませている。


「それは嫌! だってあたしの仲間だもんっ」

「分からぬな。お前は私と仲良くしたいと言い、しかし仲間は裏切れないと言う。どちらの味方なのだ?」


 明確な二者択一を突きつけられると、アスラは肩を落としてしぼんだ声を出した。


「どっちかなんて選べないよ。あたしはメルちゃんたちと仲良くしたい……でもあたしの仲間を傷つけたりもしてほしくない」

「別に殺すわけじゃない。君はどうだか知らないけれど、痛みだって感じないはずだ」


 だから厄介なんだ、と小さく付け足しながら、テスターが指摘を入れる。


「本当に、痛みは感じないのかな。もし本当だったとしても、だったらいじめていいのかな?」


 アスラはテスターに返しながらも、ゆっくりと全員を見回していく。それぞれに問いかけるように。


「それに……殺()ないんじゃなくて、殺()ないんだよね。(めっ)(さつ)できるなら、そうしたいんだよね?」


 たまたまなのだろうか。最後の質問はリュートを見ながら発せられた。

 心に慎重に踏み込んでくるアスラの言葉を――


「はっ」


 笑い飛ばしたのはグレイガンだった。


「そいつはちょっと都合が良過ぎるんじゃねえか? そもそもお前らが殺す気で襲ってきてるから、こんなことになってんだろうが。なのにてめえは死にたくない暴力はやめてくださいってか?」


 (えん)()を隠さない乱暴な物言いではあったが、彼の言うことには一理あった。

 アスラを説得しようと、今度はリュートが彼女を見つめた。


「俺たちだって好きで()(しん)を斬っているわけじゃない。君らが女神の命を狙わなければ、そんなことしなくて済むんだ」

「あたしね。メルちゃんのこと、憎いとかそんなふうに思ってないよ。でも分かる。きっとかつては()()だったの。みんなと同じ。すごく憎くて、怒ってた」


 言葉を切り、心底不思議そうにこちらを見返すアスラ。


「どうしてなんだろう」

「それは、自らが唯一の神になりたかったから……」

「それは()(しん)が言った答えじゃないよね?」


 教科書通りの答えをあっけなく否定し、アスラは再び女神を見た。


「みんなメルちゃんに怒ってる。でも自我が消えちゃって、回帰形態まで戻らなければ、本人ですら憎しみの理由が分からない。だからメルちゃんたちとは対立するしかなくて……でもあたしは、あたしの仲間もメルちゃんたちも、どっちも大切にしたいんだ」

「あわよくば、こちらに感化されてないかと期待していたが……あと少しが足りなかったようだな」


 失望した口調で、女神。


女神(こいつ)はなにを言ってるんだ……?)


 完全に置いていかれた気分だ。そして同時に、怖くなる。


(まるでずっと前から、この日を待ち望んでいたみたいじゃねーか)


 女神の意図が分からない。


「しかしなんにせよ、様子を見る程度の価値はあるな。となると気になるのは……」


 女神はわずかに、顔をグレイガンの方に向けた。

 それだけでグレイガンは察したらしい。さっとアスラの前まで出てくると、彼女を見下ろす。


「小娘。お前、腹減ってねえか?」

「? 減ってないよ」


 不思議そうに返すアスラに、グレイガンは「そうか」とうなずいた。そして笑った。


「なあ、そもそもお前に食欲はあんのか? もしないなら――お前はなにをエネルギーとして活動してるんだろうな」


 アスラがはっと息をのむ。


「それは……」

「その(おに)(むすめ)は、私や(しん)(ぼく)の力――恐らくは(しん)()の類いを糧としている」


 言いよどむアスラの代わりとばかりに女神が解説し、グレイガンは張りつけた笑みをリュートへと向ける。


「どうしたイカ墨小僧、立ち方がだらしねえぞ。()()()()()()?」


 その言葉に込められた意味を、恐らくは全員が察しただろう。

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