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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
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1.鬼神の少女③ もう抱き込まれたのか?

「さてどうするか。この世界の物に()れることができるのであれば、その分だけ懸念も増える。ひとまずは拘束・監禁が妥当だが……」


 リュートの学生服を握りしめている少女を見下ろし、セシルが重々しく腕を組む。

 訓練校一無情な男の視線を受けて、少女はリュートの背中に身を隠した。


「……やだ。あたし嫌だよリュー君」


 おびえた声になにを思い出したのか。

 背後の少女を(しゅん)(じゅん)するような瞳で見つめた後、リュートがセシルを向いて提案する。


「……もうちょっと柔軟な対応はできねーのか?」

()(しん)かもしれない少女だぞ。我々の敵だろう」

「見た感じ、俺たちに危害を加える気はなさそうだぜ。それにこの()が自分で思い込んでるだけで、()(しん)じゃない可能性もある」

「なんだ? もう抱き込まれたのか?」

「んなんじゃねーよ」


 嘲るセシルに、顔を背けてリュートが言う。


「……誰だって、監禁なんてされたくねーだろ」


 リュートの考えていることが、分からなかったわけではないだろう。

 しかしセシルは、リュートの言葉ににじむ感情に、少なくとも表面的には気づいていないふうであった。組んでいた腕をほどき、妥協案を繰り出す。


「よかろう。今日の午後には少女の処遇を決める。それまでは、君たちが適切に()()をしてあげなさい。だいぶ気に入られているようだしな。ただし、くれぐれも内密に」

「? わ、分かった」


 まさか意見をくんでもらえるとは思わなかったのか、たどたどしくリュートがうなずく。


「ご判断ありがとうございます。このような時間に失礼いたしました」


 冷ややかに言ったのはセラだ。形だけは礼儀正しく頭を下げ、さっとセシルから距離を置く。そして、


「それでは失礼いたします――行くわよ」


 セシルに送る以上の冷たい視線を少女に送り、歩きだした。

 必要以上に厳しいまなざしに疑問が生じたが、セラが少女に厳然とした態度で臨むのであれば、都合がいい。


(まあ自分を偽って反逆した事実があるから、表面的な態度だけでは安心できないけどな)


 そこは改めて自戒しながら、テスターは3人が退室するのを見届けた。

 リュートとセラと少女。全員が部屋から消えたのを確認後、セシルへと向き直る。

 セシルが眉をひそめた。


「どうした? まだなにか用かね?」

「学長」


 こちらから切り出すまであくまでしらを切る様子のセシルに、テスターは望み通り切り込んでいった。


「もしかして、ご存じだったんじゃないですか? こういった事態が起きると」

「ほう?」


 セシルは(あい)(づち)を打つだけで、()めてはこない。

 テスターは下を向き、赤く輝く()(けん)の切っ先に目をやりながら、続けた。


「あの少女は、希少かつ重要な存在です。気に入られているからというだけで、いち訓練生に任せるなんておかしいでしょう。幽霊騒ぎの時も、セラには個別でなにかを伝えていらっしゃったようですし。全ての流れは織り込み済み……そのような印象を受けますが」

「どうだろうな。どちらでも構わないだろう? 大事なのは、あの()(じん)を懐柔すればメリットは計り知れないということだ。明確な敵意を示せば滅すればいい……まあだからといって、無意味な気負いは不要だがな」


 微苦笑の気配に顔を上げると、こちらの手元――()(けん)を目で指すセシルの姿があった。


「なにかあれば通常の道具でも、物理的に押さえ込める。無駄に消耗することもなかろう」

「……そうですね」


 少女は見た目は無力であっても、どんな力を秘めているか分からない、得体の知れない存在だ。その警戒心が空回りし、意義のない行為につながっていた。


(……いや、違うな)


 ()(しん)という存在に対し、()(けん)がないと落ち着かない自分がいた。ただそれだけだ。


()(けん)がないと、()(しん)のそばにいることもできないのか、俺は)


 思い至った情けない事実に、テスターは苦笑いを浮かべるしかなかった。


◇ ◇ ◇

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