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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第5章 明日讃歌
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1.鬼神の少女② それにしたってこの造形はないだろう

◇ ◇ ◇


 窓の外から鳥の鳴き声が聞こえてくる。明け方に鳴きだす種のようで、考えてみれば、耳にする時は大抵布団の中だ。

 が、今日に限っては非常に(まれ)な場所で、テスターはその鳴き声を聞いていた。


「なるほどな」


 リュートの報告を聞き終えたセシルは、椅子に深く腰掛けたまま彼を見上げた。


「つまりはこうか。セラから突然、その少女が分離して現れた。そして少女は自身――いや、自分()()()(しん)だと主張している。(きっ)(きん)事であると判断し、規則違反の時間外訪問と承知の上で、総代表執務室までやって来たと。その認識で間違いないな?」

「あ、ああ……」


 机を前に、自信なさげにリュートが答える。

 そして彼の腰に両腕を回すようにして、(くだん)の少女がぴったりと張りついていた。全裸ではなく、セラの予備の制服を身に着けて。


(ねむ)……)


 脳に(もや)が懸かったような感覚を追い払おうと、テスターは()(けん)(つか)を強く握った。その感触が自覚を促す。集中を途切れさすなと。


(まあ、用心するに越したことはないからな)


 リュートと少女、その隣に立ち並ぶセラから数歩のいた場所で、発動済みの()(けん)を手に様子をうかがう。事実かどうかはさておき、()(しん)を自称しているのだ。いつでも斬れるようにしておいて損はない。


「女神や(しん)(ぼく)のことも知っている。というより、セラがもっている知識は全部、彼女の頭にも入っているらしい」


 反応がなくて不安になったのか、リュートが聞かれてもないのに付け加える。ここに来る前、あらかじめ少女に確認しておいた事項だ。


「……ふうむ」


 顎に手を当て、もったいつけるように、セシル。


()(しん)が現れて、まだ間もない頃のことだ。女神様はやつらをその身に取り込み、浄化しようとお考えになった。しかし取り込まれた()(しん)は、内部から女神様をむしばみ始めたのだ」


 それは(しん)(ぼく)なら知っていてしかるべき内容だ。

 ただしセラとリュートにとって、その話がもつ意味はまた違ってくる。


「女神様はその侵食から逃れるため――」

「逃れるため、私にそれらを押しつけた」


 セラが冷え切った口調で、セシルの説明を遮る。

 セシルはその上をいく冷厳なまなざしで、彼女の言葉を補った。


「そう。だから君は()(しん)を呼べた。そして面倒を起こした」


 その罪深さを忘れるなとでもいうように、セシルの目が危なげに光る。


「その少女が本当に、セラから分離して現れたというのなら、()(しん)と自称するのもうなずける。すでに1週間前、その予兆は確認されているしな」


 予兆というのは恐らく、『絶望幼女と狂乱童子』の件だろう。

 (のち)にリュートから聞かされたところによると、あれはセラから漏れ出た()(しん)の魂――だか力の一部だか、とにかくその類いのものだったとか。


(となれば確かにこの現象も、その延長と考えられなくもないけどな……)


 それにしたってこの造形はないだろうと、テスターはぽりぽりと頰をかいた。

 別に外見に惑わされる気はないが、斬って寝覚めが悪いのには変わりない。


「これは推測だが」


 セシルが立ち上がり、机を回ってこちら側へとやって来る。


「彼女は、かつて取り込まれた()(しん)の集合体だ。女神様に吸収された()(しん)の魂や力が、ひとつの魂を核として再構築されている。要素となった()(しん)たちを平均化したものなのか、核となった魂をもとにしているのかは分からないが……人格まで形成するとは驚くべきことだ」

「人格……?」


 似合わない言葉を聞いたとばかりに、リュートがつぶやく。

 口には出さないがテスターも同感だった。()(しん)に人格という言葉は結びつかない。

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