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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
番外短編
214/389

私のリュート様⑤ なにも思わないんですか?

◇ ◇ ◇


「リュート様は今日という日に対して、特になにも思わないんですか?」


 放課後。

 静観だけではなにも進まないと、セラはとうとう切り出した。


「今日という日?」


 採血中の腕を動かさないよう注意しながら、リュートが考えるようにして上を向く。

 一応誠実に記憶等たどってくれたようで、しばししてから彼は返してきた。


「別になにも」


 机を挟んで向かい合っているので、不機嫌な顔をすればすぐに伝わってしまう。セラはなるべく平常心を心がけて踏み込んだ。


「今日ですよ? 4月22日ですよ?」

「そう言われても……」

「悩みがあるなら相談に乗りますけど」


 いらいらと注射針を引き抜く。


「いや……ないけど」


 平常心はあっけなく砕け、セラはがたりと立ち上がった。


「なんでないんですか、青春世代がそんなはずないでしょう⁉ きっと鬱屈したなにかがあるはずです! ほら心を探って、とがった感情さらけ出してくださいよ!」

「なんだよとがった感情って」

「そうやって内に秘めて変に醸成させて(くさ)していくから、じじむさいって言われるんですよ!」

「なんで俺突然蔑まれてんの……?」


 完全に置いていかれた目で、こちらを見上げてつぶやくリュート。

 セラは注射器片手に、ほとんどにらむようにその顔を見下ろし――


「そうですか」


 1ミリの理解もないリュートの顔に落胆し、へたりと座り直した。

 思い知らされた。

 自分にとっては特別でも、兄にとってはただの4月22日なのだ。

 もはや期待できることはなにもなく、最終下校時刻までの時間潰しが続く。

 リュートもセラのギスギスした雰囲気を感じ取っているのか、少し離れた席で黙々と、授業の復習をし始めた。

 今日は週に一度のノー部活デーというものらしく、監視対象の()(どう)(あけ)()もとっくに帰宅の途についている。


(自主練は禁止しないっていうんだから、一番休息が必要な運動部には意味がないような気もするけど)


 自分こそ(くさ)した感情を持て余し、窓の外の光景を皮肉る。運動場では多くの生徒が『自主トレ』に励んでいた。

 そんなこんなでようやく下校時刻――いつもより早いはずなのに、本当にようやくだ――になり、セラは胸中で息をついた。

 どこか哀愁漂うメロディーに乗せて、下校を促すアナウンスが校内に流れる。

 15分ほどしてから、リュートがぱたりとノートを閉じた。


「そろそろ帰るか」


 最近構築されてきた流れでは、ここでセラも同道する。しかし、


「リュート様は先に帰校しててください。私用事あるので、もう少し残ります」


 今だけは兄と距離を置きたくて、セラは用事をでっち上げた。


「俺も手伝おうか? 今日は下校時刻も早くて余裕あるし」


 椅子の背に肘を乗せ、リュートが何気なしに聞いてくる。

 セラは日報帳のページをめくりながら、


「ひとりで大丈夫ですよ。守護騎士(ガーディアン)には守護騎士(ガーディアン)の、アシスタントにはアシスタントの仕事があるんです」

「でもきょ――」

「いらないです!」


 勢いに任せてめくったため、日報帳のページが破れた。

 それすら自分への嫌がらせに感じ、舌打ちする心地で後を続けるセラ。


「というかリュート様がいると余計に時間がかかります。お願いですから先帰っててください。仕事増やさないでください」

「……分かった」


 リュートからすれば、あけすけに無能と言われたようなものだ。

 さすがに彼もむっとした様子で、手早く荷物をまとめると、


「じゃあ俺帰るから。あんま遅くなるなよ」


 とだけ残して教室を出ていった。

 ひとりきりの教室で、セラは破れた日報帳をにらみつけた。


(……ほんと、私ってば頭おかしいんじゃないの?)


◇ ◇ ◇

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