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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
番外短編
213/389

私のリュート様④ 特別な日

◇ ◇ ◇


 そわそわして落ち着かない。

 平静を装うのに、こんなに苦労するのは久しぶりのことだ。


(だってしょうがないじゃない。今日は……)


 世界にとってはなんの変哲もない1日だが、自分にとっては特別な日なのだ。

 リュートと正式な()()()()をしてから6日。それなりに心の距離は縮めた。

 早朝の誰もいない教室で、今か今かと待ちわびる。

 やがて規則正しい足音が近づいてきて、教室後方の扉が(ひら)かれた。

 セラはがたりと席を立ち、入ってきた人物へと駆け寄る。


「おはようございます、リュート様っ!」

「? お、おはよう。どうした?」


 リュートは戸惑った顔で挨拶を返してきた。


「いえ別に。いい天気だから気持ちが弾んでるだけですっ。こんな日にはふさわしい青空ですよね」

「こんな日って?」

「え? えっと……」


 そこまで言えば絶対に反応を引き出せると思っていたので、セラは言葉に詰まってしまった。

 しかしリュートの顔をどれだけ眺めても、苦い懐かしさへの(ほほ)()みだとか、癒えぬ悲しみをたたえた瞳だとか、そういった感情の動きは(かい)()()えない。

 セラは仕方なくごまかした。


「ほ、ほらっ。今日はアースデーですから」

「そうだったけ」

「そうですよ、アースデー! いい日ですよねっ」

「異次元のごみは出ていけって、排斥派が元気になる日が?」

「それはっ……あらいけない、早く採血しないとだわですわ!」

「……君、大丈夫か?」

「だぁいじょうぶですよ! 今日も女神様のおかげで元気いっぱい胸いっぱいです!」


 一歩引きながらも気遣わしげな言葉をかけてくれるリュートに、セラはそれ以上の返答を思いつかなかった。

 そして以降も、想定していた展開にはつながらなかった。

 廊下寄りの席からは、窓際のリュートの挙動は追いにくい。それでも隙を見ては食い入るようにチェックしていたのだが、それらしいそぶりは()(じん)も見受けられず。


 唯一確認できた表情の波は、ホームルームでの、学校祭に関する話し合い。

 発表する劇が()(やま)(えつ)()の創作台本に決まり、役割分担決めにより大道具係を割り振られたその時、リュートは面倒くさそうに顔をしかめた。

 それだって一瞬で、注視していたセラですら、積極的な断定はし(がた)いレベルの変化であった。


 その時ちょうど次元がずれて、リュートが素早く立ち上がる。

 揺れた()(けん)が椅子の脚にでも当たったのか、小さくも硬く主張する音が教室に響いた。

 それは簡単にのぞき込めそうなのに、どうあっても打ち破れない心の壁の象徴のようだ。


(お兄ちゃんはなにを考えているの……?)


 スマートフォンで(げん)(しゅつ)対処済みの報を送りながら、セラは教室を出ていくリュートの背中を見送った。


◇ ◇ ◇

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