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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第4章 マネー! マネー! マネー!
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6.友達のつくり方⑨ お前はお前でそれでいい。

「リュート様、やり過ぎです」


 駄目元でいさめると、意外にも兄は素直に拳を引き抜いた。


「ああ、悪い悪い。友達つくろうと、つい必死になっちまった」


 友達つくろうと必死になって、なぜ拳を食わせるのかは謎としかいえない。

 リュートは快活な笑みを浮かべると、仕切り直すようにして(けん)()の横に座り込んだ。


「んでさ、本題。お前友達になってくれんの?」

「へ?」

「言ったじゃん。考えとくって」


 ()(たん)、びくびくしていた(けん)()の態度が一変した。顔の引きつりを多少残しながらも、勝ち誇った笑みを浮かべ、


「か、考えるだけだ! 考えた結果、お前は僕様の友達にふさわしくない! 僕様の靴をなめるのがせいぜいだ! なんてったって僕様はエリートなんだから! お前は僕様と違って下層市民のさらに下層の最下層民なんだから、本来なら僕様と同じ空気を吸うのすら許されないんだ! だからお前は僕様に――」


 リュートはいまだ持っていたフォークを逆手に持ち替え、(けん)()の眼前すれすれに突きつけた。


「僕ボクうるせえよボンクラ。つべこべ言わずに友達になれ殺すぞ」

「ひいいいぃっ⁉ 友達っ! 僕ら友達いいいぃっ!」

「……ざ、斬新なつくり方だな」


 (ほお)(づえ)をつきながら、テスターが苦笑いを浮かべる。というより、少し引いているようであった。


「なんか、ちょっとかわいそうな気もするわね」


 フォークの先端と網膜でキスしようとしている(けん)()を見て、セラもぎこちなく笑みを浮かべた。

 リュートの強引な友達付き合いはまだ続く。


「それよりお前さ、ちょーっとばかしダイエットした方がいいんじゃねーか?」

「ぼ、僕様が太っていると言いたいのか? これは体質で仕方なく……」

「いやいやいやいや、別に俺は気にしねーよ? 気にする方がおかしいんだ。お前はお前でそれでいい」


 グッと拳を握った後で、リュートが指を立てて力説する。


「けどさ、林田家のご子息様としては、イメージってもんも大事だろ? なあに俺にまかせてくれりゃあ、ものの1分でお前をスタイリッシュに仕上げてやるよ」

「い、1分で?」


 少し興味が湧いたのか、(けん)()が期待を込めたまなざしをリュートに送る。


「ああ任せろ」


 リュートはカートリッジを取り出し、()(けん)を引き抜いた。


「この辺りのお気楽な(ぜい)(にく)をズバッといっちまえば、洗練されたスタイルに早変わりだ」

「そんな血しぶき舞いそうなのは嫌だよ!」

「遠慮すんな出血大サービスだ。おらいくぞ」

「ひいいいい! 助けてえええ!」


 襟首をつかまれた(けん)()がばたばたと騒ぎ、リュートがねじ切れた笑みを浮かべる。


「おいおい、あんま動くと内臓までズバッといっちまうぞ」

「あああああっ!」


 部屋を駆けずり回って必死の攻防を繰り広げるふたり――いや、必死なのはひとりか――を視界に収めながら、セラはテスターに問いかけた。


「どうするテスター君? ()める?」

「んー……ここまで来たら、突き抜けた方が批判も受けないかもな」

「本当に突き抜けちゃいそうだけど。主に()(けん)が」

「ま、そのときは()めればいいんじゃないか。ぶつかり合ってこその友達だろ」


 そういう問題ではないような気もしたが、


「……そうね」


 盛り上がっている(?)ふたりに割り込む度胸もなく、セラはテスターと傍観することを決めたのだった。


◇ ◇ ◇

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