表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第4章 マネー! マネー! マネー!
202/389

6.友達のつくり方④ すごいですね健吾様。

◇ ◇ ◇


 額にバンドを取りつけて、ズレないようにきつく締める。コツコツと靴先で地面をたたいて調子を整えながら、リュートは声を上げた。


「準備できたぜ」

「俺も大丈夫だ」

「僕様も!」


 アスレチックの両脇から、テスターと(けん)()が返してくる。キツネ役の彼らは、テニスボールランチャーを肩に下げていた。

 打てるのは3発まで。本来は()(けん)も使えるが、(けん)()には無理なので武器はランチャーのみだ。それを使ってリュートの印――額と両手首、腰の後ろに付けた小さな風船のうち、どれかひとつでも割ることができればキツネの勝利となる。リュートが自分で風船を割ってしまった場合も同様だ。


(ったく、めんどくせえ)


 リュートはわしゃわしゃと髪の毛をかき回した。

 気は乗らないが、()(かつ)に動けば目だって潰れる。やるともなれば気は抜けない。

 ふたりの声を受け、リュートは隣に立つセラへと目を向けた。彼女はリュートとテスターから預かった()(けん)を抱えてこくりとうなずき、声を張り上げる。


「それじゃあ始めます。キツネのおふたりは、ウサギのリュート様がスタートしてから3秒後にスタートしてください。では、ウサギ役。用意……」


 腰を落とし、セラの声に集中するリュート。号令ではなく呼吸音から捉える心地で耳を澄ます。


「――スタート!」


 地面を蹴って、眼前にそびえる壁へと走りだす。

 壁が迫ったところで、リュートは強く踏み切った。手足を駆使して壁を駆け上り――この時セラがキツネ役に号令を送った――限界ギリギリで(へり)をつかんで身体(からだ)を引き上げる。

 勢いを殺さぬように、着地の流れで走りだす。キツネ役はすぐにでも追いついてくるか、そうでなくともランチャーで撃ち込んでくるはずだ。いっときも足は()められない。

 次の壁を前に、リュートは一瞬後ろを振り返り、


(遅っ!)


 思わず急停止した。

 速攻で勝負をつけたら怪しまれるから、適当なところで負けて、機嫌を取るつもりだったのだが……


(負けられるのか、これ……)


 (けん)()はまだ、最初の壁を越えてもいなかった。壁といっても(けん)()のコースはただの階段だ。普通に駆け上がればいいのに、ただただひたすら遅かった。

 とっくに壁を越えたテスターも、どうしたものかとその場で足踏みをしている。


「…………」


 リュートは嘆息し、(けん)()に気づかれないよう、進んだ分を少し後退した。彼がぜえはあと階段を上りきったのを確認すると、なるたけゆっくりめに走りだす。


(けん)()様ー、チャンスです。腰のやつ狙えますよっ」


 テスターが(けん)()に助言を出す。と同時にこれは「腰に行くからうまいこと当たれ」という、リュートへの指示でもあった。


「よし」


 (けん)()は張り切ってランチャーを構えた。リュートも――できるかどうかは別として――うまく当たろうと背後に気をやる。

 そして――

 ――ばすっ!

 音だけは勇ましく、どうあがいてもリュートには当たらない方向へと、テニスボールが飛び出した。


(さすがに無理だろ!)


 と諦めたと同時、リュートは視界にもうひとつの球を見た。テスターが発射したテニスボールだ。

 恐ろしいことにその球は、(けん)()の打ち出した方向音痴球に衝突し、その軌道を強制的に変更させた。リュートから少し左にずれた辺りに。


「マジ……かよっ⁉」


 リュートはつんのめったふりをし、左手を投げ出した。その手首にテニスボールが迫り――ぱんっという破裂音とともに風船が割れる。


「しまった!」


 我ながらあからさまな声を上げ、後ろを振り向く。

 (けん)()は状況について行けていないのか、ランチャーを構えたまま、きょとんとこちらを見ていた。

 そんな彼に、


「すごいですね(けん)()様」


 テスターが拍手をしながら近づいていく。


「今のって、普通に狙うとリュートによけられるから、俺が軌道修正する前提であさっての方向に撃ち込んだんですよね」

(いや、それはいくらなんでも信じたら馬鹿だろう……)


 あまりに強引な持ち上げ方に、リュートはあきれた顔を見せた。

 (けん)()がうれしそうに鼻をこする。


「ま、まあね」


 馬鹿だった。


(ま……まあそれならそれでいいか。最低限のダメージで終わるんだし)


 じんじんうずく左手首を握りながら、リュートは(けん)()に笑いかけた。


「いやあ、楽しかったですね。それじゃあ俺は片づけしますんで、(けん)()様は休んどいてください」

「え? なに言ってるんだよ。たった1回じゃ物足りないでしょ」


 馬鹿かこいつは、と言い出さんばかりの顔で、(けん)()


「ってことはつまり……(けん)()様としては、もう1回やりたいと?」


 リュートは絶望的な気分で聞き返した。

 (けん)()が――悪気はないのだろうが――(のん)()に、ランチャーをぶち込みたくなるほどの大口を()ける。


「そうだね。もっともっと、せっかくだし飽きるくらいまではやりたいね」


 それは心の死刑宣告にも近しい言葉だった。


◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ