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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第4章 マネー! マネー! マネー!
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6.友達のつくり方② もっとへりくだるべきじゃないかな。

◇ ◇ ◇


「あー、つまらない。なんで僕様がこんな所に来なきゃいけないんだ。市長の息子も楽じゃないよね。貴重な時間を、警備員との交流に割かなきゃいけないんだから。まあ僕様は良い人だからちゃんとお務めは果たすけど。警備員の学校も、もしかしたらほんの少しは面白いかもしれないしね」

(誰か助けてくれ……)


 駐車場でべらべらとまくし立てる小太りの少年を前に、リュートはうんざりと空を見上げていた。中天にかかった太陽がまぶしい。

 ここの地区の市長は、比較的(わたり)(びと)に寛容だ。(わたり)(びと)と積極的な交流ももとうとしてくれる。地球人――それも愛息子を訓練校にお泊まりさせるなど、全国初の試みではないだろうか。素晴らしい。進歩的だ。どっかよそでやってほしい。

 少年の口上は続く。


「まあ僕様たちのお金を使って建てた学校だしね。有意義じゃないと金返せって感じになるよね。そういや、君らは警備員になるために訓練してるんだろ? まあ市長の息子という重圧がある僕様よりは楽とはいえ、それでも同情はするよ。大変だよねえ、渡来人は」

(渡来人じゃねーし。(わたり)(びと)だし)


 昨夜――というか今日というか――の幽霊騒ぎで寝不足な上にこれでは、身も心も1日もちそうにない。

 市長の息子に気に入られれば、なにかと都合が良くなる。

 端的にいえば、それが学内バイトの内容だった。市長の息子――(はやし)()(けん)()のお()りをした上で、彼と友達になること。が、


(市長はどうだか知らねーが、こいつどう見ても俺らを見下してんじゃねーか。友達になんてなれんのかよ。つかなんだよ警備員って)


 リュートは助けを求めて、両隣に視線を送った。リュート同様セシルからこの学内バイトを提示された、テスターとセラに。


 彼らはなんとか立ち姿勢だけは模範的に(たも)ち、死んだ魚のような目で少年の話に耳を傾けていた。そしてリュートと目が合うと、「こちらこそ助けてほしい」と言わんばかりのまなざしだけを返してきた。

 いや、心なしか恨みがましさも感じ取れる。恐らくはリュートのとばっちりで、この学内バイトを回されたと思っている――そしてその予想はたぶん的中している――のだろうが、そんな視線(もの)こちらに向けられてもどうしようもない。


(まあ雰囲気的に、俺が率先して頑張るべきか……しょうがねーな)


 しなびたやる気をしなびたなりに奮い立たせ、リュートは林田少年を改めて観察した。

 林田(けん)()は一目見ただけで、エリート階級ということがうかがえる少年だった。

 といっても育ちの良さが(かい)()()えるとかではなく、聞かれてもいないのに「僕エリートです」と(ふい)(ちょう)するような見た目をしているという意味でだ。


 高級そうな子ども用のスーツ一式を着込んでいるが、サイズが合っていないのか、ボタンが今にもはじけ飛びそうだ。整髪剤でガチガチに固められた髪は、どれだけへらへら頭を揺らしても、全く形を崩さない。首を締めつけている細い(ちょう)ネクタイは、自分の気道をあえて塞ごうとしているのかとすら思う。光沢のある革靴は、セシルの靴の何倍も高価であるに違いない。


(あるところにはあるんだなー、金。しかも無駄なところに)


 自分の経済状況が(ひっ)(ぱく)しているだけに、ついつい飢えた目で見てしまう。

 と、他者の介入を良しとしない一方的な会話を続けていた(けん)()が、ようやく会話のボールをこちらに投げてきた。


「で、君たちが僕様の案内係? 何歳?」

「14だけど。今年で15」


 リュートが答えると、(けん)()は訳知り顔でうなずいた。


「同い年を当てたってわけか。ここの学長も安直だね。14歳には僕様の相手は荷が重いと思うよ。僕様は早熟だからね。少し年上くらいがちょうどいい」

(要所要所でいらつくやつだな……)


 セシルが馬鹿にされるのは極めてどうでもいいことだが、絶妙に不快なツボを突いてくる(けん)()に、リュートは早くも(へき)(えき)していた。


「えーっと。林田君」


 頭をかきながら、手を差し出す。


(わたり)(びと)の学校にようこそ。改めて、俺がリュートでこいつがテスター。で、彼女はセラ。よろしくな」

「よろしく()?」


 差し出された手を不服そうに眺め、(けん)()がねっとりとした口調で返してくる。


「さっきの返答もそうだけど、君ちょっと偉そうじゃない? もっとへりくだるべきじゃないかな。君たちはいってみれば、奉公人のようなものだろ。特に僕様は市長の息子なんだし、そういったところはわきまえてもらわないと」

(う……うぜえ)


 握られることのなかった手を差し戻し、リュートは顔をひくつかせた。

 それを見てリュートの限界を感じたのか、セラとテスターが助け船を出してくる。


「そうですよね、すみません。私たちみたいなただの訓練生には、エリート階級の方と接する機会がないものですから、緊張してしまって……」

「そうそう。浅学非才な俺たちには、こうしてあなたと話せるだけでも、この上もなく光栄なことですからね。な、リュート」

「そうそう、そう。そうですね。ほんと光栄です」


 引きつった笑みを浮かべながら、頭の中で警告音が鳴る。この方向性はよろしくない。

 案の定、(けん)()は使用人の無礼を許す主人の面持ちで、


「まあ、そういうことなら多少は仕方ないね。育ちというものは、いきなり変えられるものでもないし」


 ウザさ大爆発で寛容な判断を下してくれた。


(友達どころか、交流相手とすら認識されてねえ……)


 友達になるなど、すでに達成困難な状況であった。こうなれば、適当にへりくだりながらも徐々に親近感をもってもらえるよう、それとなく誘導するしかない。

 それを即行動に移したのは、笑顔の仮面には手慣れたセラだった。ぱんと手のひらを合わせ、


「じゃあ早速、敷地内を案内させていただきますね。まずは――」

「まずはあそこがいいかな。ここに着いたときから気になってたんだ」


 (けん)()はマイペースにセラの言葉を遮り、ある施設を指さした。


◇ ◇ ◇

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