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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第4章 マネー! マネー! マネー!
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6.友達のつくり方① 実に無様で見苦しい。

◇ ◇ ◇


 プライドというものは、自分をつなぎ止める(くさび)のようなものだ。ともすれば周りに流されそうになる世の中で、揺らぐことのない意志を形成するための土台となる。自分が自分であるために、プライドは必要だ。

 しかし時にはプライドを捨てて、地べたに()いつくばってでも手に入れなければならないものがある。


 という訳でリュートは地べたに()いつくばって、自動販売機の下に小銭が落ちてないかを入念にチェックしていた。


(あー。ったく、全然落ちてねえな。小銭ひとつ落とさないって、どんだけ()()()()やつらだよ)


 自分のことは完全に棚に上げて、胸中でぼやく。と、


「っ()


 後頭部を小突かれ、その勢いで自動販売機に額をぶつける。

 地面に伏せたまま頭だけを振り返らすと、眼前に、嫌みなくらいピカピカに磨き上げられた靴があった。


「立ちなさい。実に無様で見苦しい」


 リュートは上方からかかる声ではなく、とがった靴先に向かって、冷めた言葉を返した。


「追い詰めた本人がよく言うぜ」


 大仰に立ち上がりながら、緩やかなローブの(しわ)に沿うようにして、相手をねめ上げていく。


「あんたが今朝、財布の中身まで取り上げてくれたおかげで、俺は完全無欠の文無しになっちまったんだよ」

「それは大変だな」


 この男が形の上だけでも謝意を示さないのは、まあいつものことだ。今更期待していたわけでもないので、リュートは気にせず反転した。もしかしたら掲示板に、新たな求人が紹介されているかもしれない。

 が、歩きだすよりも前に、セシルに肩をつかまれる。


「そんな君に朗報だ。掲示板に張り出されていない、とっておきの学内バイトを紹介しよう」

「お断りだね。2年前と同じ(てつ)を踏むかよ。もうだまされねえ」

「あれは正式な治験依頼だっただろう。副作用の可能性は、君も承知していたはずだ」


 言外に自己責任をにじませる言葉にかちんときて、リュートは、肩に置かれた手を払うようにして振り返った。目をすがめて、


「軽い頭痛と吐き気はな。骨が小枝並みにもろくなるなんて、想定外過ぎんだろ。元に戻るまでの1カ月間、どれだけ苦労したことか」

「あれは実に愉快だったな。はたくたびに、小気味よく骨が砕けて」

「死ね」


 (のろ)って再度反転しようとするリュートの肩を、やはり再度つかんで引きとどめるセシル。


「感情にまかせて()くな。引き受けた方が君のためだぞ」

「拒否した方が身のためだね」

「それはないな」

「なんでそう言い切れる?」

「なぜなら君の承諾の有無にかかわらず、学長として申しつけるからだ」

「……んだと?」


 反応するだけ相手を楽しませるだけだ。

 分かっていても自然と眉はつり上がり、反抗的なトーンになる。

 セシルは実に楽しそうに、


「学内バイトとして引き受けるなら報酬を支払おう。拒否するなら訓練生の責務として命ずるだけだ。その場合、当然報酬はない」

「…………」

「それで、どうするかね? 選ぶのは君だ」


 選択の余地も意味もないのに、選べとのたまう。


「本当うっっっぜえやつ」


 しっかり伝わるよう、リュートは精いっぱいの(けん)()を込めた。


◇ ◇ ◇

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