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愚神と愚僕の再生譚  作者: 真仲穂空
第4章 マネー! マネー! マネー!
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5.丑三つ時の狂乱⑥ ナイステスター!

(このやろ……)


 頰をひくつかせていると、テスターが手を挙げた。


「学長、よろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「セラはリュートの不審な動きが気になって、確認のため部屋を抜け出しただけです。元々ここは彼女の寮棟ですし、深夜(はい)(かい)だけで罰するには弱いかと」

「なるほど、考慮しよう」


 (おさ)らしく、威厳を含ませうなずくセシル。リュートは心の中で拳を握った。


(ナイステスター!)


 彼のおかげでセラは処罰を免れそうだ。ついでに自分のこともフォローしてもらえればと、期待を込めてテスターを見る。


「ではリュートに関して、そういった勘案事項はあるか?」

「全くありません」

「おい!」


 叫ぶ。


「悪い悪い」


 頭に手をやり、さほど申し訳なさそうにもなく、テスター。


「でもさ、本当になにも知らないんだよ。仕方ないだろ」

「せめて言い方ってもんが――」

「決まりだな」


 リュートの言葉を遮り、セシルが断じる。


「処罰はリュートひとり。()()――いや今日か。朝一番に総代表執務室に来なさい。詳しくはそこで話す」

「マジかよ……」


 最終的に自分だけが罰則を受けることに、疑問を感じなくもない。しかしそう思っているのはリュートだけのようで、周囲はそれで解決という雰囲気をつくりつつあった。


「さあ。もう遅いのだから、早く寮室に戻りなさい」


 その言葉で(いや)(おう)でも話は終わった。セシルに促され、(みな)でジムを出ようとすると、


「君は少し残りなさい。話がある」


 引き止められたセラが、足を()める。つられてリュートも立ち止まると、セシルは「君は行け。邪魔だ」と邪険に手を振ってきた。

 それについては反抗的な視線を返し、転じてセラを見るリュート。

 セラが大丈夫だとばかりにうなずいたので、リュートは気になりつつも廊下へと出た。先行していたツクバとテスターに早足で追いつくと、ツクバは頭の後ろで手を組み、テスターに向かってぼやいていた。


「なんだかねー。一応解決したって感じにまとまってるけど……結局なんだったのかしら、絶望幼女と狂乱童子。(ざん)(こん)って感じでもなさそうだったし」

「研究棟がまた、なにかやらかしただけってオチかもしれませんね。どのみち学長が慌ててないなら、重大事態ではないですよ」

「それで思い出した。レコーダー! せっかく少しは()れてたのにー」

「壊れでもしたんですか?」


 嘆くツクバに問いかけると、彼女は唇を突き出して答えてきた。


「学長に回収されたのよ。一応分析に回すって。あれ絶対返ってこないパターンだわ」

「いいじゃないですか別に。記憶には残ってるんだし」

「……そうね。生で見れただけよしとするか」


 リュートの言葉で踏ん切りがついたのか、ツクバはさっと背筋を伸ばした。


「んじゃあ私、先行くわね。早く寝ないとお肌に悪いし」


 意外に女の子らしいことを口にして、たたたっと小走りになるツクバ。東口の扉に手を()れると、彼女はこちらを振り返った。


「じゃ、またねイカ墨君。絶望幼女によろしくね」

「だからイカ墨じゃ……え?」


 反射的に返して、言葉が途切れる。

 今の口ぶりではまるで――


「……ま、いっか」


 扉の向こうに消える彼女を、どこか()(にん)(ごと)のように見送る。


「いいのか?」

「隠したがってるのも分かっただろうし、あえて言い触らしたりはしないだろ……たぶん」


 リュートは自信なくテスターに返して、自分も出入り口に近づいた。扉を押し開いて外へ出ると、不気味なにやにや笑いを(ほう)彿(ふつ)とさせる、極細の三日月が目に入った。


「あー……眠」


 勝手に下りようとするまぶたを(かろ)うじて持ち上げながら、リュートはあくびを()(ころ)した。


◇ ◇ ◇

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